新しい「ことば」の学び方――「一身にして二生を経る」時代を生き抜くために

田村優輝×浅羽祐樹「クロストーク」

 

■星々をつないで星座を描く

 

浅羽 田村さん、ありがとうございます。まさに、このとき、この場が、新しい「ことば」を知る経験になったのではないでしょうか。

 

学生のみなさんからすると、普段出会わないタイプの人から、普段聞いたことのない「ことば」をいくつも耳にし、目にもしたと思います。田村さんにとっても、普段接している人と全く違う相手に対して、全く違う「ことば」で語ることを、それこそ楽しむという姿勢がよく出ていたのではないか、とお見受けします。鸛鵲楼からの眺めは見晴らしも見通しも良いので、ぜひ一度みなさんも登ってほしい、そして見晴らしのいいところ、vantage pointから世界に臨んでみませんか、というお誘い、招待状として受け止めました。

 

田村 ありがとうございます。抽象的なことを言っていると感じた人も正直いるのではないかと思います。大学一年生ですと、今後自分が何をして生きていきたいのか、どういう職業に就きたいのか、どんな人と結婚したいのか、全く訳の分からない状況でしょう。私も大学一年生のときはそうだったと思います。

 

実は、みなさんが、ここ、新潟県立大学にいる時間は短いんですね。この講義に出ているのは、大学一年生が大半だと聞いています。就職活動は、だいたい大学三年生の頃に本格化していきますから、それまでに単位をほとんど取っておかなければいけないでしょう。そうなると、残された大学生活は、それこそ1年とか1年半くらいしかないかもしれないわけです。一人ひとり、周りの友達とは進路が違います。それは当然のことで、各自、やりたいことが異なるからです。これまでであれば進路指導の先生が「あなたの学力ならだいたいこのくらいだね」と志望校を勧めてくれたでしょう。しかし、今後はそうはいきません。「なにがやりたいのか」とまず訊かれます。そして、やりたいことをやるために、どういうところで働きたいのか、新潟にいたいのか、東京に行きたいのか、それとも日本を飛び出したいのか、どんな新しい「ことば」を学びたいのか、自分自身に問いかけなければいけません。

 

浅羽 私自身にとって田村さんは年に数回しかお会いできない存在ですから、今回の特別講義もとても楽しみにしていました。みなさんにも、その期待を昨年10月の時点からお話をしていたと思います。後期授業の初回でタイトルを示していましたが、それだけ二人で入念に打ち合わせをして臨んできました。それは、田村さんが私にとって「信頼に足る参照先」であるからなんですね。こうしたコラボレーションをさせていただくのも今回で三回目ですが、文字どおりその有難さを今回も改めて痛感させられました。

 

田村 ありがとうございます。もちろん年齢は浅羽先生のほうがだいぶ上なので、仲良くするなんていうのはおこがましいのですが、浅羽先生は「よく見ている人」です。これは私自身が浅羽先生をよく見ているという意味でもあり、先生自身も現在の社会の動きをしっかり観察している、という意味でもあります。私も仲良く、楽しく過ごさせていただいています。

 

浅羽 今回も最初から「通訳」「翻訳」をしていただきました。タイトルの「新しい「ことば」」において、平仮名表記でカギ括弧付きの「ことば」にした意味や意図について、conclusion firstでお話いただきました。英語と日本語では文章構成が全く違っていて、英語は最初に結論を出すという話をされましたが、今日の話の組み立て方自体がまさにそうでしたね。

 

 

浅羽06

 

 

田村 せっかくこの場に来て、一時間ちょっとしかない中でお話するわけですから、消化不良に終わってしまうとつまらないと思いました。これが全15回の講義なら、もう少しみなさんに考えていただく時間をとっていたと思います。なので、あえて最初に半分ネタばらしをしたうえで、みなさんが書くことになっているレポートで何を書けばいいのか、を考えてほしくて、アウトプットにつなげることまで意識して、今回の形式にしました。

 

浅羽 幾重にも織り込んだかたちにつくり込むというのは、今の世の中の成り立ちそのものですよね。普段なかなか気づきにくいのですが、そのことに気づくと、舞台を見て喜んでいるだけの観客ではなく、舞台に上がる演者、あるいは舞台そのものを作る演出家や劇場の経営者の側に自分もいつか回ってみることができるようになるかもしれません。これまでとは別様に、違ったかたちで世界に臨むことができるのだ、ということを示してくださいました。

 

田村 みなさんは毎週ミニ・レポートを提出していると聞いています。一回一回はたいした点数配分があるわけでもないのに、「~~について**字で論じなさい」という課題について、面倒くさいなぁ、バイトもあるのになぁ、と思いながら書いている人もいるでしょう。ですが、ここで視点を変えて、レポートを出す側に回って「なぜこんなレポートを毎回提出させるのか」について考えてみてください。そうすると、先生が半年をかけて、この授業で何をみなさんに学んでほしいのか、という狙いに気づくことになります。これは他の学習でも同じです。例えば数学の試験で、問2の(1)(2)(3)というように、ひとつの問いがいくつかの小さな問いに分かれている場合があります。この(1)(2)は導入問です。いきなり(3)という本題を出されると、解けない人が続出するでしょうから、出題者が補助線を引いてくれているわけですね。

 

毎週の課題は、実は、浅羽先生が出していた補助線を知らず知らずのうちになぞっていたということですね。それが最後には大きな問題につながるんだ、という展望、期待を持って、単に目の前の課題をこなすだけでなく、「なぜ先生はこんな課題を出すのか」「最後、どういう眺めを得るのだろうか」という大きな視点で見ると、楽しみ方も変わっていくんだと思います。

 

浅羽 まさに先まで見通すと、「いま、ここ」をめぐって、別の意味づけをすることができると、ここ「県立大」の基準では厳しいとされるこの授業のやり方をパラフレーズ(言い直す)し、エンドース(承認)してくださいました。教員として、とてもありがたいことです。学生のみなさんにも、それが伝わると嬉しいんですが…。

 

田村さんは13年間のキャリアの中で、7つの異なるポストを経ながら、3つの職位を上がってこられました。その中で、だんだん楼を登っていくと、見通しがさらに立つようになってきたというお話でしたが、これまでの「ことば」が通じないというのはどういう経験なんですか。

 

 

■これまでの「ことば」が通じないという経験

 

田村 まず、単純に、「ことば」が分からない。「なにこれ?」という経験ですね。

 

昨年7月に人権人道課に配属された直後、部下から上がってくる文書の略語が分からないことがありました。例えば「EoV」という用語です。「どういう意味だろうか」と調べてみると、Explanation of Vote、つまり「投票理由説明」という言葉が出てきました。私はそれまで国連分野には全く携わってこなかったので、最初はそのレベルから始めるしかなかったんですね。

 

これは、何かに投票する際に、なぜそこに票を投じたのか、投票の事前又は事後に説明するというプロセスのことです。そうすることによっていちいち説明して回らなくても、「日本にはこういう背景があって、こういうふうに取り組んできて、こういう事情があったので、例えば賛成票を投じることにしました」ということが分かる仕組みになっています。

 

こういう用語は、正直分からないことも多々あります。そういうとき、さきほどお話したように、知ったかぶりをせず、その場では黙っておいて、あとでこっそりGoogleで検索するなどして分かるということもあれば、その場で恥を忍んで訊くこともあります。

 

全く別の例ですが、上司と話している中で「PRST」という用語が出てきたことがありました。これはPresidential Statement、すなわち国連安保理における「議長声明」の略語で、その業界、サークルでは「常識」になっています。しかし、これはハイコンテクストな用語ですので、国連畑、しかも安保理のことを知っている人でなければ分からないところがあります。

 

そのときの議論は、このPRSTがどういう意味なのかが分からなければ、絶対についていけないものでした。そこで私は、あえて「すみません。PRSTって何ですか」と訊きました。こういう姿勢は、相手から「こいつ、こんなことも分かっていないのか」とマイナスの評価を下されることがあるかもしれません。しかし、入門編、それこそ着任して最初の一週間、一カ月であれば、「初めての分野だし仕方ないよな」とまだ許されるかもしれません。ところが半年も経った後で言ってしまうと、「そんなことも分からないままでやってきたのか」「こいつ、ヤバいな」と思われてしまうことでしょう。

 

ここから得られる教訓は、「分からない用語があったら、恥ずかしがらずに訊く」ということです。大学の先生、バイトの先輩、直属の上司に訊いてもいいんです。訊くこと自体は恥ではありません。むしろ訊かないまま何年も過ごして、意味が分からないまま仕事することほど有害なことはありません。最初の頃は、分からないことを進んで訊くことは、特に専門用語に関して大切だと思います。

 

浅羽 みなさんも「政治学入門」は今日で13回目ですから、「集合行為問題」という用語は、今では「PRST」と同じように、自由に使えていないとおかしい話ですよね。

 

今日のお話の中にも、「人口ボーナス」「コモディティ」など、みなさんが初めて聞く「ジャーゴン」、その分野の専門用語が出てきたと思います。「優秀な通訳は通訳者の存在を知らしめない」というお話を昨年度されましたが、今日もさらっと「人口ボーナス」「コモディティ」がどういう意味なのかを「通訳」されていたので、みなさん自身、あたかも最初から知っていたかのように聞き流してしまったかもしれませんが、こういうときに「新しい「ことば」が出てきた」「ラッキー!」と面白がって、あとで自分で調べてみるという姿勢が大事だということですね。

 

田村 幸いなことに、今の時代は、Googleなどの検索エンジンがありますから、何か知らない用語をすぐに調べること自体はとても簡単にできます。ただ同時に注意しなければいけないのは、検索エンジンを通じて得られる情報は必ずしも正確性が担保されているわけではない、ということです。オープンソースで得られるもの、インターネット上には、出典が全くないものや、誰が言ったのか、明確なエビデンス、証拠のないものがあふれています。そういうものを最初に掴んでしまうと、間違った情報に振り回されることになります。

 

浅羽 「新しい環境を好奇心旺盛に楽しんだ者勝ち」というのは、お仕事だけでなく、田村さんの生き方を貫くプリンシプル、行動規範ですよね。ただ人によっては、新しいことにチャレンジして、いまのレベルとひとつ上のものを同時にやってみたところ、負荷がかかりすぎて潰れてしまうこともあると思います。前やったときダメだったから、いま楽しめず、むしろ不安になって怖がってしまうこともあります。もちろん、田村さんは「正のスパイラル」の中にいると思うのですが、例えば120%の負荷をかけて新しい100%となり、それを土台にして120%の負荷をかけて、どんどん100%にしていくと、幾何学的に成長していきます。逆に、負荷が軽すぎてもマズいわけですよね。パニックに陥ることもなければ、あまりに居心地が良すぎてその場にいつまでも留まるということもない。そういうストレッチしていける幅、伸びていける負荷のかけ方というのは、どういうものなのですか。

 

田村 もちろん人それぞれで、プレッシャーをかけられるとより強く反発できる人と、プレッシャーに弱くてなかなか本番では実力が発揮できない人に分かれると思います。私に言えるのは、迷ったり疲れたり凹んだりしたときは、必ず、絶対にできるところまで戻り、分からなくなったところからもう一度やり直す、ということです。

 

いわゆる学習困難校で、小学校の内容が分からないまま中学や高校に上がってしまい、つらい思いをしている人がいます。そういう人たちの家庭教師は鉄則として、まず小学校の教科書に戻るといいます。分数や掛け算割り算に戻って、どこから分からなくなったのかを特定することから始めるわけです。この鉄則のいいところは、掛け算や割り算ならば100点がとれることです。たとえ小学校のドリルであっても、満点は嬉しい。ここは完璧にできた。RPGで言えば、「とりあえずスライムくらいは全部余裕で倒せた」ということが自信になります。そうすることで、どこから分からなくなったのかをなんとか特定します。

 

勉強が億劫になる多くのパターンは、どこが分からないのかが分からない、というものです。特に高校の数学が顕著だと思います。そもそも何を言っているのかが分からない。その状態が半年続いて、何が分からないのかも分からなくなっていく。そうしたときにオススメなのは、確実に分かるところまで戻って、そこで問題を解決し、少しずつレベルを上げていくとことです。私自身、数学は決して得意ではなかったので、中学校の教科書にまで戻ってみるということをよくやりました。

 

浅羽 私の知人で農業経済学をやっている先生が最近、ぶどうの研究を始めました。これまでコメの研究はしていたんですが、新しい分野のぶどうのことはよく分からない。そのため、ぶどうの種類の違いや栽培法について書かれた、絵のいっぱい入っている入門書から読み始めたというエピソードを思い出しました。【次ページにつづく】

 

 

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無題

 

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