新しい「ことば」の学び方――「一身にして二生を経る」時代を生き抜くために

新潟県立大学学生×田村優輝「質疑応答」

 

■正しく努力する

 

学生A 外務省で今までお仕事されてきた中で、一番印象に残った仕事はどういうものですか。

 

田村 そうですね。13年間もこの仕事をしていれば印象に残る仕事はたくさんできてきます。一番ということではないのですが、最近の例では、昨年9月末に、国連人権理事会という場でカンボジアの人権状況決議を日本が主体になって回したことがありました。現在のカンボジアの人権状況を日本はどう見ていて、国際社会は今年予定されている国政選挙に向けてどう後押しをし、どの分野は改善したほうがいいのかについて、日本がペンホルダー、すなわち、決議の主提案国として文言を起案する立場でした。

 

この決議案交渉は、日本政府にとって非常に苦しいものでした。構造としては、カンボジアは、「日本はなんでこんな厳しいことを言ってくるんだ。日本はカンボジアの友人だろう。カンボジアの内情を分かっている日本には期待している」と言ってきます。一方、アメリカやヨーロッパ各国は「カンボジアが人権弾圧をしている中で、なぜ日本はこんな甘い態度をとるんだ。もっと厳しい内容を含む決議案にすべきだ」と言い出す。板挟みにあう苦しい状況の中、何かできることがあるはずだ、とギリギリの交渉を現場で行い、その結果、最終的には日本が提出した決議案がコンセンサス、つまり無投票でみんな賛成する、というかたちで採決されたんですね。

 

日本の立場は、人権外交の世界で独特なところところがあります。疑いようもなく、日本は自由、民主主義や法の支配、人権といった、近代の民主主義国家にとって重要な基本的価値を共有しており、その点ではアメリカやイギリスと同じ仲間です。同時に、日本はアジアの一員でもあり、その意味で欧米各国とは明らかに異なる立場にあります。ともすればどちらからも恨まれる恐れがある中で、日本がなんとか筋を通して、決議の際にコンセンサス採択に持っていくことができたというのは、最近の非常に印象に残る出来事でした。

 

学生B コツコツと努力することが大切とのご指摘でしたが、私にはなかなか難しいです。どうしたら継続できるのでしょうか。

 

田村 確かに継続することはとても難しいことです。NHKのラジオ「英語講座」を毎日15分ずつ聴くという話をしましたが、実は中学生のときから自主的にできていたわけではありません。

 

正直に言うと、私の母が、当時、カセットテープにラジオ講座を録音して、食卓の上に積み重ねていったんですね。一日、二日経つとカセットテープの量が増えていって、自分がやっていないことがバレる。無言の圧力ですよね。やれとは言われませんでしたが、10個くらい溜まるとヤバいと自分でも感じてやり始める、というのが当時の実情でした。あとから考えてみると、とてもありがたいことをやってもらっていたと思います。

 

ここから得られる教訓は、人間は黙っていればどんどん怠けていく性質があるということです。大多数の人間はより楽な方向に流れがちです。そうした中で努力を続けるというのは、一般的にとても難しい。むしろ続けられない人のほうが圧倒的多数ではないかと思います。それでも、どうにかコツコツやっていくしかありません。ひとつは、なぜ筋トレ的な努力を続けるのか、という目的意識を持つことが大事だと思います。腹筋をするにしても、毎日20回やってつらいだけでは、一日サボってしまったら「昨日やらなかったし…」と低きに流れていきます。だから、なんでもいいので、それこそ「夏までにウエストを5センチ小さくする」とか、「このデニムを履きたい」とか、努力するにあたって具体的な目標を考えてください。

 

英語の話であれば、新潟県立大学にも留学制度があると聞いています。大学二、三年生で応募したいと思ったのであれば、一定程度の点数をとらなければなりません。それを目標に設定して、その目標を達成するためにはどういう手段をとればいいのかを逆算し、どう正しく努力をすればいいのかを考えるといいと思います。努力すること自体を自己目的化するのはいいことではありません。

 

浅羽 高みを目指し、鸛鵲楼の一段目に足をかける、自分が上がれる高さにまでブレイクダウンする、毎日の一つひとつの作業工程にまで落とし込むことが大事だ、なぜなら人間はサボりやすいから、というお話を最後にしていただきました。今日のお話だけだと、あまりにかっこいいスーパーマンになってしまいますが、サボりたいという欲求は誰しもに自然にある中で、一段一段、積み上げていくことの凄みを示してくださいました。

 

私も含めて、今日伺った話は、本当に新しい「ことば」だと思います。ここにいる学生のみなさんは、英語はもちろんのこと、ロシア語・中国語・韓国語、政治学だけではなく、これからいろいろな新しい「ことば」、振る舞い方、ゲームでのプレイの仕方を身につけていく真っただ中にいると思います。ぜひ今日のお話を、この厳しい時代をタフに生き抜いていくうえでヒントにしてもらえればと願っています。田村さん、貴重なお話をまたしてもお聞かせくださり、本当にありがとうございました。

 

田村 みなさん、ありがとうございました。

 

 

新潟県立大学学生「受講生による解題」

 

■ひとつ上の景色に憧れを抱きながら

 

私は今、新潟県立大学に通う大学一年生である。国際地域学部という学部で、同じ分野に興味を持つ多くの同級生や先輩たちと関わりながら、勉学に励んでいる。ここは私にとってはとても恵まれた環境であると感じる日々である。高校生活に比べれば、県外生など、生まれも育ちも異なる環境であり、考え方も様々な人々と触れ合うことができ、私の世界は広がったように思う。

 

しかし、そのような喜びと同時に、私はいくつかの衝撃を受けた。というのも、自分は世界を知らなさすぎるということ、世界はもっと広く可能性であふれているということに気づいたからである。授業を受けると自分がいかに無知であるかを痛感し、世界はどんどん変化していることに気づかされ、自分が取り残されているようにも感じることがある。そんな中、周りを見渡せば、ボランティアに参加する人、自主的に語学に励む人、留学で経験値を積む人など自分なりにアクションを起こしている人がたくさんいる。世界が変わりゆく中で、より良い人材が求められている時代に適合し生きていくために、私はどう生きていくべきなのだろうか。

 

まず、目標を持つことが大切である。自分を動かす原動力となるものがいかに具体的でパワーを持っているかがカギである。自分は何をしたくて、そのためにどのようなことが必要なのか、どうすれば達成できるのかの過程が重要である。その原動力となる根本がしっかりしていない限り、アクションは起こせないし、継続もできない。

 

私は英語力を上げたいと漠然と思って入学した。しかし、結局、私は何もアクションを起こさないまま一年間過ごしてしまった。いま振り返れば、検定試験を受けることもできたし、英作文をチューターに見てもらうこともできたはずである。なぜそれができなかったか、それは自分にはしっかりとした原動力となる目的意識がなかったからである。

 

そんな私が今日新しい一歩を踏み出してみた。それは本当に小さな一歩である。初めてESSサークルに参加した。すると、ひとつ高い景色が広がっていたのである。今までなら授業で英語を使い会話するぐらいの景色であり、そこには何らかの義務感を感じていた。しかし、先輩たちの会話は極めて自由で、目を輝かせながら英語を使っていた。私はそこで、「英語で話すことの可能性と楽しみ」を目にしたのである。しかも、それだけではなかった。その後、人種差別についてディベートが始まった。そこでは自分が考えたことのないような考えを聴くことができ、新たな分野に触れることで新しい表現も学ぶことができた。さらに、自分の考えの浅さや、自分の意見をなかなか英語で表現することができず、もどかしさを感じた。そしてもっと高い景色を見るためには、自分の英語力を伸ばさなければいけないと痛感した。

 

私にとってこの一歩は大きな一歩であり、刺激となった。そしてまた高い景色を見たいと思った。変わりゆく世界に適用し、求められる人材であるために、私はこれからも常に高い景色に憧れを抱きながら、自らアクションを起こし、新しい「ことば」を学んでいきたい。

 

 

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