「ジョブチェンジ」し続けるための自分への先行投資法

ジョブチェンジに欠かせないスキルを身につけていくプロセス

 

それでは、どうすればいいのでしょうか。そこで主題の「ジョブチェンジとスキルを身につけるプロセス」が出てくるわけです。

 

今日の講義では、「ジョブチェンジ」の定義は、単なる転職や会社を移ることだけでなくて、「同じ組織内でも役割や立場、仕事内容が変わること」も指しています。私も同じ外務省の内で留学を含めて3か所部署が変わっていますが、これらはすべてジョブチェンジです。この定義でいえば、私は15年間に8回ジョブチェンジしています。今日の話が「転職」のことだけを指すと思っていた人は、それより広い意味だと頭を切り替えてください。

 

今しがた見たように、長期の予測は非常に難しいものです。普通の人には無理です。私たちは数年先しか予測できない。競合も市場も常に変化していきます。みなさんの場合、立場の違う学生たち、勉強でも運動でも、競い合う相手がいますよね。外の世界は絶えず変化しています。それに応じて、自分のスキルや仕事を変化させ続けていく能力が不可欠なんですね。

 

「毎日同じことを繰り返している」と言う大人の方が身の回りにいるかもしれません。こういっては何ですが、それは嘘です。同じことを繰り返しているように見える伝統産業でも改善は常に行われています。それなのに、なぜ同じことを繰り返しているとみなさんに言うかというと、改善活動をやるのが当たり前、暗黙知になっていて、いちいち言語化する必要がないからです。プロはみんな、無意識のうちにそうしています。どんな産業でもこうした改善が行われていますし、予想もしないところから突然、科学技術の影響があります。

 

たとえば私のやっているバイオベンチャーは、医療・健康系ですから、大学の先生や製薬会社の方が顧客に多くいます。一方、この科学技術は農業にも応用ができるもので、面白いものですと、代謝物の解析をするとリンゴをいつ収穫すると味がいいかを分析することができます。今までは勘で「このような天気の日に収穫すると甘みがある」と収穫する時期を決めていたのを、分析することで、言い伝えが正しかったのか間違っていたのかが判明するわけです。こうした例は過去には考えつかなかったと思います。どんな産業でも、科学技術の変化だったり、外国から入ってくる人材だったり、まったく予想できない変化が起きています。

 

長期で予測はできません。しかし、アンテナを張っていると、数年単位の傾向は見えてくる。それが大事なんですね。

 

次に、ジョブチェンジするということは、見合ったスキルを身につけていかなければいけないということです。プロの仕事ですと、外務省の場合、異動は平均して2年から3年であります。初めの数カ月くらいから半年で新しいジョブをマスターしないといけません。マッキンゼーの場合はもっと短くて、私がやった一番短いプロジェクトで2週間、長いもので数カ月でした。その頃にはジョブをマスターして結果を出さないといけない。そのくらいのサイクルが求められます。

 

それでは、スキルを身につけていくプロセスを私自身の経験をもとにお話しましょう。

 

最初は「できないことに気づいていない」というステージ0です。率直に、今のみなさんは大部分がまだこの段階ではないかと思います。悲観するには及びません。最初はそんなものです。次が「できないことに気づいた」というステージ1です。意識が出てくるのは大きな進歩です。この0から1への変化には非常に大きな壁があります。何かに気づけるかどうか。今日の話でそうなれば嬉しいですね。

 

 

 

 

その次は「できないことに気づいて行動している」というステージ2です。できないことに気づいたけれども、忙しかったり忘れてしまったりして行動に移せずに時間が経ってしまうことはよくあります。人には心理上、現状維持バイアスがあります。なので、すぐにできるようにならなくてもできないことに気づいて行動を始めることは非常に大事です。ステージ1から2へも、0から1へと同じくらい壁があります。

 

「できないことに気づいて行動している」なかで、やっているんだけどなかなか上達しないという状況に、語学でもスポーツでも専門の勉強でも、必ず直面します。そこで諦めず、「正しい努力」を続けていれば、「意識すればできるようになった」ステージ3に上がります。まだ時間がかかるかもしれませんが、仕事としては一人前としてみなされるようになります。

 

さらに続けていくうちに、だんだん習熟して「意識しなくてもでき、次のスキルを探す」というステージ4に達します。その頃には、ジョブは自然にできるようになり、精神的にも時間的にもゆとりが出てくるので、他に自分に足りないものを探せるようになります。スキルはこういうプロセスで身につけていくんですね。

 

 

学生のアドバンテージ

 

ここでみなさんにクイズです。学生のみなさんが浅羽先生や私よりも圧倒的に有利なものとは何でしょうか。私の中で3つくらい答えがあるんですが、どなたか……。

 

(学生A「自由時間」学生B「体力」と答える)

(手が上がらず、鈴木さんが教室内を歩いて行って指名。学生C「若さ」と答える)

 

このように講師が側に寄ってきて当てることはcold callといいます。この大学でやっているか、分かりませんが、今日初めて知った人は、それも学んでください。

 

自由時間、体力、若さ、どれも正解だと思います。素晴らしい。自分のアドバンテージを適切に認識していますね。

 

先生と私で話をしていても、出てきました。若い分、みなさんは私たちより20年分の時間があるので、何かできるはずですね。これは非常に大きなメリットです。「自由」時間も同様ですね。日々の時間の使い方はある程度自分で決められる立場にあると思います。体力もそうですね。

 

あと2つ、あります。1つは「新しさへの対応力」ですね。だんだん年をとってくると経験で物事がうまくいく、得することもあるですが、一般論としては新しいことへの感受性が減ってしまいます。新しいことでも、今までの経験と似たようなものだと思い込んでしまうがゆえに新しいものに目が向かなくなることがあるんですね。みなさんの場合、新しいことを素直に受け入れる余地があるんです。問題はそうした情報にアクセスしようとするかですが、同じ情報にアクセスしたときに、年をとった人だと、昔見たものと同じだよねとそのインパクトを過小評価してしまうことがあるんです。

 

もう1つは、オフラインの世界で、かつ犯罪ではない場合に限定しますが、「失敗に対する周りからの寛容度」がみなさんと社会人ではまったく異なります。社会人の場合、失敗すると再チャレンジさせてもらえることもありますが、一発退場になる場合も少なくありません。有名人でもそうでなくても、何かの発言や行動が炎上してとんでもないことになる場合が結構あります。学生のみなさんもオンラインで炎上するとそうなるリスクは常にあります。他方、オフラインの場合、何か失敗して怒られても、数週間すればみんな忘れています。学生のしたことだとして許してもらえることが多いと思います。この点で失敗を経験しやすい。これは若さのアドバンテージですので、ぜひ利用していただきたい。つまり、いっぱい挑戦して、いっぱい失敗してくださいということです。

 

 

大谷翔平選手の「ドライチ8球団」マンダラチャート

 

ジョブチェンジするためにはスキルをアップしなければいけません。そのためには先行投資をしていくことが大事です。

 

とても示唆的な例を紹介します。大リーグのエンジェルスにいる大谷翔平選手の話です。大谷選手が2010年、高校1年生のときに、マンダラチャートという方法を使って、将来への計画を書いています。これは、まず真ん中に、数年後の夢として「ドライチ(ドラフト1位指名) 8球団」と明らかにしています。その夢をかなえるために必要なことは何か、周りを囲むように「体づくり」や「コントロール」など8つの課題を示しています。さらにそれらの周りに、また8つ、それぞれを達成するために必要なことに分解されています。真ん中から順に書いていくんですね。

 

これはもちろん監督による適切な指導に基づいて書いているはずです。みなさんは高校1年生のときに大谷選手のように将来の夢を達成するために何が必要か、分解して書けたでしょうか。これは学力とかは関係ありません。適切な指導があって適切に考えたからできたことです。書く人はこれだけ書くんですね。

 

大谷選手がこのマンダラチャートを書いていたこと自体も素晴らしいのですが、中身の塩梅も絶妙なんですね。相手目線で現れる現象とそれを支える自分のスキル、そしてマインドセットがバランスよく整っているんです。

 

「スピード160キロ」「変化球」とあります。これは打者目線から見たときに感じられる現象です。打者にとっては脅威ですよね。一方、「体づくり」「コントロール」「キレ」というのは、「スピード160キロ」「変化球」を支える自分のスキルの部分です。さらに、「メンタル」「人間性」「運」のようなマインドセット、心持ちについても記されています。「心技体」がバランスよく配置されていて、かつ、その要素を細かく分解して、何をしないといけないのかを計画的につくっているわけです。

 

みなさんに問いかけたいのは、別に長期を目指す必要はないのですが、数年後に何をしたいのか、ということです。講義にあたってみなさんに出しておいた事前課題には、「留学したい」と答えた人がたくさんいました。真ん中に「留学する」と書いたならば、何が必要でしょうか。どういうことをしていけばいいでしょうか。大谷選手のように書けるのか、書こうと考えたことはありましたか。ただ願っていても夢は実現しません。こういうふうに計画をつくって、一つずつ実行していくことが鍵です。

 

もう一つ大事なことは、これは大谷選手がひとりで書いたのではなく、監督の指導とコーチングがあったんですね。適切なコーチングを受けられるかどうか、その環境にあるのか、あるいは自分から先生方に指導やコーチングを求めているかということが重要です。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.3.15 

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