LGBTが生きやすい職場のために

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「フェア」と「ケア」

 

村木 前に明智さんがシノドスに書いた記事が、ブロゴスに転載されて、コメントが荒れたことがありましたが(※編集部註:「性的マイノリティへのいじめをなくすために ―― 同性愛者の目線から見える日本社会の課題 明智カイト」http://blogos.com/article/53594/ 現在コメントを閉鎖しています)、そのコメントを私と某企業のAlly(アライ)の方で溜息をつきながら分析してみました。

 

「親しみ」がある/なしと、「知識」がある/なしの二軸をクロスさせて、4つの層にわけられると思うんです。まず、「知識もなく、LGBTは気持ち悪い」と思っている人たち、「友達にいるけど、別に困ってはいないし、公助までは必要ないでしょ」って人たち、「親しみがあるし、公助も必要」という人たち、それからブロゴスのコメントには見られませんでしたが、「自分の周囲にはいないけど、世の中の流れとして公助は必要なのかもね」という人もいると想定されます。

 

親しみも知識もある層をのぞく3つの層に対して、どういう働きかけをするといいのか。

 

まず、頭ではわかっているけれどLGBTへの親しみをもてない人には、イベントを開催するとか、当事者との接触機会を増やして、LGBTの問題を自分の友人の問題に感じてもらうことが大切だと思います。また友達にいるけど、公助までは必要ないと考えている人には、私たちが何に困っているのか、正しい知識をもってもらうことが大事です。

 

そして最後、「気持ち悪い」と思っている人たち。これは、大問題ではありますけど、私のアプローチの方向としては、当面、放っておこうと思っています。彼らと直接戦おうとすると、その言葉の激しさから、前述の2つの層が「ひいて」しまうと思います。だから私は直接対決はせずに、じわじわと少数派に持っていってしまおうと。当事者としてどう思いますか?

 

明智 まずそもそもあの反応って想定外だったんですよ。あの記事は、「いじめをなくしたい」という気持ちで書きました。公助の話も、ホワイトリボンのやりたい方向性を書いただけで、具体的な、たとえば「お金が欲しい」なんてことは書いていません。いじめをなくすための意識改革について伝えたかったのに、コメントをみたら「お金なんて出せるか」って反応があったのでびっくりして。こういう活動をすること自体が、「=お金」とみられてしまうのはなんでだろう? って思いました。

 

遠藤 ダイバーシティには「フェア」と「ケア」の二つの軸があって。たとえば、ヘテロとLGBTが仕事でお給料を同じだけもらうのはフェアなことだと思うんですけど、たとえばLGBTに限らず、女性でもそうだと思いますが、同じように雇われていても、職場で女性グループの力が弱いために情報がなかなか入ってこなくて、業績があげられないといったケースがあると思うんですよ。

 

つまりケアがなければ、男性と同じように働くことが難しいのに、電車の女性専用車両にしてもそうですけど、同じように扱うことが公平という考え方があって。「なんで男性と違うことをするんだ!」「マジョリティと違うことをするんだ!」って言われてしまう。同じように社会参加するためには、同じように扱うのではなく、なんらかのサポートをしないといけないという意識が抜けているんですよね。

 

村木 いまLGBTが気軽に相談できる窓口がほとんどないんですけど、本来、会社はすべての従業員がヘルプラインを使えるようにしなくちゃいけません。じゃあどうすればいいかというと、相談窓口の人が、LGBTについての研修を受けて、知識があることが当事者にも目に見える状態にすればいいんだと思います。

 

でも、まめたさんが言ったように、それに対して文句をいう人がいるんですよね。「もとから窓口はあるし、使うななんて誰も言ってないだろ」って。使いにくさは理解してもらえてないんです。

 

 

なぜ自分が働きづらいのか気がつかない

 

明智 それに性の話って女性の話に行きがち。セクハラとか、育休とか産休とか介護とかが女性の制度になってしまって、LGBTとか男性に目がいってないんですよね。

 

村木 昔は「女性施策」って言ってましたね。企業が「ダイバーシティ」と言ったとき、いまもほとんどが女性の問題をやっています。ダイバーシティ施策の根拠にもなっているCSRの基準「ISO26000」の人権項目には、英文では「ジェンダー・イクオリティ」と書いてあるのに、日本だと「男女平等」って訳されてしまって、LGBTがすっぽり抜けているんです。

 

だから虹色ダイバーシティは、すでに女性を活用しようというダイバーシティ推進組織を作っている会社に対して、その対象として「LGBTもいれませんか」とお話しています。女性施策の中でもLGBTにもそのまま使えそうなものは沢山あるんですよね。具体的に説明すればほとんどの担当者は「女性や障がい者の問題と同じですね」といってくれます。

 

明智 それはグローバル企業?

 

村木 そうですね、大きい会社。

 

明智 そっか、ごく一部ってことですよね。

 

遠藤 いまの日本でいわれているダイバーシティって、男性、しかも健常者で複雑な事情を抱えてない人をベーシックに考えていて。それにあわせられない女性が辞めていく。それを食い止めるために、育休など女性向けの施策がつくられているんじゃないかと。つまり男性向けのモデルしか用意されていないことがそもそもの問題で。いまはそのモデルがあわなくなってきたから、働きづらさが生まれているんじゃないかと思うんですよね。

 

それから働きづらさを感じているLGBTが、その原因がLGBTだからだと思っていない人もいると思うんですよね。自分が思うに、仕事ができないことを、やる気がないせいだとか職場の人間と仲良くできないせいだと悩むことはあっても、なぜそうなっているかまでは思いつかないんですよ。自分の性別は当たり前のことだから、改めてそのことを考えないのかもしれない。

 

そもそも労働問題にそういう側面があると思うんです。長時間労働で毎日疲れている人は「周りも同じように働いているのに、どうして自分だけ生産性が低いんだろう」って悩むとき、働きすぎていることではなくて、能力が低いからだと考えてしまう。もしかしたらその人の労働時間を短くすることで、より生き生きと働けるかもしれません。

 

村木 おっしゃる通りだと思います。アンケートに答えたことではじめて、LGBTであることが職場の中で感じるストレス要因のひとつだと気づいた人もいるでしょう。それだけで、これからの気の持ちようが違ってくるかもしれません。

 

 

自分が働いている姿をイメージできない

 

村木 それと、先ほども少し話しましたが、LGBTと職場の問題を考える時はやっぱり貧困の問題も一緒に考えなければいけないと思うんです。転職を繰り返してしまう人や、無職の人は、LGBTの方が比率として高い気がします。虹色ダイバーシティは大手の企業を相手にすることが多いので「キラキラしたことばかりやっている」って思われがちですが、いまの状態では職場で「働くことができない」人がいることを想定して、「働くこと」を考えたいと思っています。職場環境が変われば、働けるようになる人って多いと思うんです。

 

私の友人で鬱を患っていたゲイの方がいたのですが、彼は何度か働くことにトライしたものの、やっぱり職場がしんどくて働けず、生活保護を受給していました。その彼は結局、自殺しちゃったんです。友人たちと彼が住んでいた部屋の片づけをしながら、「どうしてこんなことになっちゃったんだろう」って考えずにはいられませんでした。それぞれに思う事はあったようですが、私の頭に残ったのは「もし彼が働けていたら……」でした。その後、私自身も体調不良で休職した期間があったのですが、その時は強烈に、人ごとじゃないと思いました。彼は、私だったかもしれない。何かのボタンのかけ違いで、私にも同じ事が起こるかもしれない。

 

明智さんが最初に、「社会全体が生きやすく」とお話されていましたが、その社会のひとつに職場があると思うんです。だから「職場を生きやすくする」という意味では、虹色ダイバーシティも自殺対策の一環だと思っています。

 

明智 中高年の男性が雇用を失って自殺してしまうことが多くて。やっぱり仕事、職場、雇用の問題が大きいので、それは当然、LGBTだってそうだと思います。

 

実体験としてですが、自分はいま働いてはいますが、10代のときのいじめが原因で、仕事をしていても緊張しっぱなしで、本当に家に帰るとぐったりで。そもそも会社に行くこと自体がやっぱり苦痛なんです。それでも仕事をして生きていかなくちゃいけない。

 

10代の頃、つらい思いをして深い傷を負ってしまったLGBTは、20代でカミングアウトして受け入れられたとしても深い傷を抱えなくちゃいけないんですよね。それを考えたら小さい頃から本人がLGBTであることを受け入れられるような環境になっていないといけないと思います。それが一番素晴らしいなって。それに10代の頃に自殺しちゃったら、就職なんて言っていられないので……。私たちの場合は、学校でのいじめや自殺対策をやっていて。あとは役割分担で、就職のところまで、村木さんの活動のところまで送り届けるみたいな。

 

村木 就職した後、どんな働き方ができるか、そもそも自分が働いている姿をイメージできないLGBTのワカモノって多いと思うんです。虹色ダイバーシティが職場の環境を整えることで、LGBTでも働けるって将来図を示すことができれば、それはワカモノのためにもなると思います。……(つづく)

 

(構成/金子昂)

 

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