ネット中傷被害を考える ―― もし、ネット上で「殺人犯」にされてしまったら

ある日、突然「殺人犯」に!? 前ぶれもなくはじまったネットでの中傷被害に、10年以上も悩まされることになったお笑い芸人・スマイリーキクチ氏。見えない敵とどう戦ってきたのか、ジャーナリストの江川紹子氏と共に語り合う。(構成/山本菜々子)

 

 

事件の発端

 

江川 『突然、僕は殺人犯にされた』(竹書房)を拝読いたしました。キクチさんは全く身に覚えのない事件の犯人と疑われ、10年間以上もネットでの誹謗中傷を受け続けた。まずは、どのような被害を受けたのかについてお話して頂ければと思います。最初に被害を受けたのはいつですか。

 

キクチ 今から14年前の1999年です。事務所のホームページに設置されている掲示板に「殺してやる」「死ね」「人殺し」といったぼくへの誹謗中傷が書きこまれるようになりました。あまりにも身に覚えがなかったので、怒りが湧いたというよりも不思議な感覚でした。

 

ぼくが犯人として疑われた事件は、1988年に足立区で起きた凄惨な殺人事件で、当時犯人達は少年だったので名前が伏せられました。たまたまぼくが足立区出身で、犯人達と同世代だったので、このような書きこみがあったのかと思っていました。

 

江川 何件くらいあったんですか。

 

キクチ 1000件くらいはありましたね。読んで行くうちに疑問がどんどん膨らんでいきました。中には「殺人事件をネタにしやがって」といった書きこみもあり、この人達は何がしたいんだろうと思っていました。

 

当時はまだ携帯電話にインターネット機能が付き始めたばかりで、誰もが気軽にネット詮索をする時代ではありませんでした。それほど影響力があるとは感じていなかったので、否定すればすぐ終わるものだと思っていました。

 

江川 デマについて否定はしたんでしょうか。

 

キクチ しました。事務所のホームページ上で「このような事実は一切ございません」とコメントしたんです。すると、「やってない証拠を出せ」とまた中傷がはじまりました。

 

江川 やっていない証拠なんて出せませんよね。言う方に説明責任があるに決まっています。

 

キクチ 噂自体がどこから出てきたのかも分かりません。「ライブ終わりに来てください。疑問に答えます。」と告知して待っていても誰も来ませんでした。しかし、怒りの矛先が自分に向かっているのを感じました。中傷があまりにも酷いので、事務所のホームページの掲示板を閉鎖したんですが、そうすると仕事先に苦情が来るんです。当時出ていたCMの会社やテレビ局などにも「殺人者をテレビに出すな」という抗議が多数ありました。

 

仕方ないので、事務所の掲示板を再開させると、また誹謗中傷が続き、ファンの方がぼくを擁護する書きこみをしてくれたら、その方々まで「犯罪者擁護だ」と叩かれてしまいました。さらに、ライブに来てくれるお客さんに対しても殺害予告がありました。そこで、事務所の判断で警察に相談しようと思ったんです。

 

江川 最初のうちはいくら警察に相談しても取り合ってもらえなかったようですね。

 

キクチ 当時はインターネットの犯罪がほとんどなかったため、書きこみに対して「危険性がない」という判断がされました。刑事さんにも一生懸命やっていただいたんですが、そもそもインターネットがわからない刑事さんも多かった。

 

江川 噂の出所は分からなかったのでしょうか。

 

キクチ 数千の誹謗中傷の書きこみのうち、5件の発信元を割り出すことができました。しかし、本当にその人が発信したのかが分からないということで捜査は打ち切りになってしまいました。

 

後で分かったのは、「犯人の実名」として数人の名前がある掲示板に書き込まれていて、そこにぼくの本名である「菊池聡」または一文字違いの「菊地聡」という名前が一緒に並んでいたということです。そこから、スマイリーキクチと本名も出身も一致すると思われたのでしょう。しかし、その並んでいる名前には何の根拠も信憑性もありません。なぜこのような情報を信じてしまえるのか不思議です。

 

その後、段々と噂は収まっていき、ぼくも安心していました。しかし、2008年にブログをはじめてから、また誹謗中傷が書きこまれるようになります。

 

 

egawakikuti

 

 

 

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