男女雇用機会均等法では「共働き」を実現できない

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私は、そうではない、と主張してみたい。というより、男女雇用機会均等法はその根本的な方向性からして「家庭と仕事の両立」を、ひいては真の意味での「共働き」社会を導くようなものではない。というのは、男女雇用機会均等法はほぼ一貫して、女性を従来の男性的な=「無限定的」な働き方に引き入れようとするものだからだ。

 

たとえば「コース別管理制度の留意点」には、「労働者の意欲、能力、適性等に応じ、総合職への転換を積極的に進め、経験、能力を十分に評価した処遇が行われるように配慮しましょう。」「総合職の女性割合が4割を下回っている場合には、総合職に女性を積極的に採用したり、一般職からの転換を積極的に進め、女性の活躍推進を図りましょう。」といった指示が書かれている。

 

別の記事でも書いたことだが、日本における男性的な働き方は主婦あるいはパートの妻がいてはじめて可能になるものだ。したがって女性が「無限定」正社員として働き、それなりの水準で家事サービスを受け、将来的に子どもを持つためには、彼女に「妻」が必要だ。夫はたいていのばあい「妻」になれないので、未婚女性の場合には母親がその役割を果たしている(しかし母親と同居してもふつうは子どもができないので少子化に拍車がかかってしまった)。

 

正社員の「無限定性」とは、濱口桂一郎氏のいう「メンバーシップ型雇用」の特徴で、勤務時間、勤務地、職務内容について限定性がないという条件を引き換えに高い賃金を得るという点が、転勤のない準総合職や一般職、さらに職務内容がある程度限定されたパート労働などとは異なっている。夫が無限定的な働き方(残業あり、転勤あり)ができるのは、そのパートナーが働いていないか、あるいは限定的な働き方をしている場合である。無限定社員と無限定社員の共同生活は、極めて難しい。

 

「夫婦ともに残業が常態」なワーキングスタイルで文化的な私生活が営めるとは思えない。それに、たとえば一方が転勤になれば、他方は仕事(別居)か家庭(離職)かを選ばなくてはならない。そうでなくとも、転勤とは基本的に「生活破壊」的な慣行だ。パートナーが働いていればなおのことである。「パートナーに転勤の可能性がある」ということだけで、子育てやキャリアの見通しが立たなくなってしまう。

 

皮肉なことに、「男女雇用機会均等」が徹底された先にあるのは「主婦(夫)」を欲する男女の増加であり、そうである限り女性は無限定の総合職に就こうとはしなくなるか、就いても出産を機に、あるいは復職後しばらくして辞めてしまう。性別分業は維持されるだろう。

 

 

本当の問題はどこに

 

上記の「留意点」には、「女性の能力発揮に向けての環境の整備を図りましょう」とうたってある。その内容は、「出産・育児を機に女性が不利にならないように配慮せよ」というものだ。しかし出産・育児期が終わっても手のかかる人間(子どもと夫)が家からいなくなるわけではない。それに夫が転勤すれば、自分のキャリアも考えなおすことになる(夫が単身赴任した方が手のかかる人間がひとりいなくなる分楽だ、という話を聞いたこともあるが……)。

 

要するに、これまでの政策の方針は「女性を従来の男性的働き方に近づけましょう、ただし出産・育児期は配慮します」というものなのだが、これではおそらくほんとうの意味での「共働き」カップルは増えていかない。

 

今ほんとうに必要なのは、労働時間の短縮(上限規制)と可能な限り転勤のない働き方の推進である。男女雇用機会均等はその上ではじめて意味を持つ制度だ、ということを強調しておく必要があるだろう。

 

サムネイル「Ginger Man and Wife」Orin Zebest

https://flic.kr/p/7jnjEp

 

 

 

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vol.269 

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