“自分らしさ”をケアするのは誰か ―― ホームヘルパー、制度と日常を越えて

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「私が生活や、生きる上でこだわりたいことについても、ほとんどやって貰えない。なぜなら生きるために必要最低限なことではなく、私の単なるこだわりだから。でも私にとっては、自分らしく生きるのに必要な部分なんだな。なんで障害があると、好きな模様に部屋をカスタマイズすることも許されないのかな~。」(困ってるズ!vol.13より)

 

自己免疫疾患の一種である全身性エリテマトーデスを疾患されているKさん。ヘルパーさんが引っ越しのお手伝いや模様替えなどを手伝ってくれず、いったいヘルパーさんは何をしてくれるのか、そもそもどんなお仕事なのか疑問をお持ちのようでした。そこでケアサービスを行っているNPO法人グレースケア機構代表の柳本文貴さんに、ヘルパーとはどんなお仕事なのか、どうしてヘルパーに出来ることと出来ないことがあるのか、お話をお伺いました。(聞き手・構成/金子昂)

 

 

NPO法人グレースケア機構とは

 

―― 最初にNPO法人グレースケア機構がどのようなご活動をされているかお聞かせください。

 

グレースケア機構は2008年に介護職・ヘルパーの仲間でつくったケアサービスの事業所です。制度外の自費による介助や生活支援を中心に、介護保険や障がい者自立支援法にもとづくケアも行っています。その他、成年後見などの相談活動や研修事業、町づくり活動などにも取り組んでいます。

 

グレースケア;http://g-care.org/

 

発端は2006年介護報酬のマイナス改定でした。小泉改革で社会保障費が削減されたあおりで、民間活力と言いながら、実際は役所の権限を強化してヘルパーの仕事に細かい解釈と指導を持ち込み、ケアの内容が制限されました。介護はもっと豊かな仕事だったはずなのに、ヘルパーは利用者の生活をみるより制度の方をみて「これはダメ」と断ることが増えた。やれる内容が限られ、報酬は抑えられる結果、よい人材は集まらない。結果、いつまでも質が上がらず、社会的評価も報酬も低いままという悪循環がつづきます。

 

そこで、わたしたちは個別のニーズに柔軟に応えた質の高いケアを提供することで、利用者もヘルパーも双方が満足でき、質に応じて報酬を上げることで介護を担う人材のすそ野を広げたいと思い、自費中心の事業を立ち上げました。

 

 

なぜヘルパーの仕事に制限があるのか

 

――  「困ってるズ!」vol.13を書かれたKさん(自己免疫疾患の一種である全身性エリテマトーテスに罹患)は、ヘルパーの仕事に制限があるために「自分らしく生きられない」「生きる上でこだわりたいことについても、ほとんどやって貰えない」と困っておいででした。なぜこのような問題が生まれてしまうのでしょうか。

 

ヘルパーの仕事は、利用する側からみると、どこまでやってくれるのかがとても分かりにくいですよね。このカードを見てください。これは昨秋に上智大学の「介護何でも文化祭」で行った『介護保険でできることを探せ!!』ゲームです。

 

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34枚のカードに生活場面や介助内容がいろいろ書いてありますが、このうち介護保険でできるものは7枚だけ。ウラをめくるとOKかNGか書いてあり、「NGのものはグレースケアがします!」という趣向です(笑)。たとえば、介護保険を使ってヘルパーと日用品の買物はできますが、地元の行事などには行けない。お部屋の掃除はできますが、庭の手入れはできない。介護保険の適用範囲外については、自費でサービスを使う必要があるわけです。

 

介護保険でカバーする範囲については、制度の始まる直前に出された厚生省の通知(*1)が基本となっています。これは食事や排泄、入浴など身体介護や、家事援助の具体的な項目と手順を例示したものです。ここで家事援助に含まれないものとして、「商品販売や農作業などの生業の援助」と、「本人の日常生活に属さないものの援助」の2つが明記されました。

 

*1 2000年3月 厚生省老人保健福祉局「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」(老計第10号)

 

ではいったい、本人の日常生活に属さないものって何でしょうか? 自分らしく生きようとすることは、すべて非日常の領域になってしまうのでしょうか。人の日常というのは千差万別ですから、現場が混乱しました。8か月後に別の通知(*2)でさらに具体的な事例が示されました。

 

*2 2000年11月 「指定訪問介護事業所の事業運営の取扱等について」(老振第76号)

 

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これが今でも、ヘルパーのやれないことリストとして流通しています。正月のおせちはもちろん、Kさんが困っている家具の移動や模様替えなどは日常の家事を越えるので、ヘルパーは仕事としてはできません。くすんだガラスに草ぼうぼうの庭、散歩に行けないペットがうずくまっていても、日常生活には支障がないと見なされ、ヘルパーは関与しないんです。

 

これが基本なのですが、あとは役所によって、また時期によって、関連する法律によって、そして現場の事業者やヘルパーによって、さまざまなバリエーションが生まれています。それがまた分かりにくい。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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