“自分らしさ”をケアするのは誰か ―― ホームヘルパー、制度と日常を越えて

分かりにくい制度によって自主規制をしてしまう

 

―― 具体的にはどのようにやりにくいのでしょうか。

 

まず、市や区などの保険者ごとに解釈が異なるケースは多い。たとえば、同居の家族がいると基本、家事援助はできませんが、「同居」をどうとらえるか、二世帯住宅でも交流がなければよいという役所もあれば、離れた家でも同じ地番ならダメという役所もある。

 

また、家の外は掃除できませんが、縁側や玄関先はどうか、掃除と大掃除の違いはどこか、など線引きの仕方も異なります。ヘルパーは日用品の買い物はできるけれども、嗜好品は買ってはいけないことになっていて、厳しい自治体では酒やタバコなどは買えない。でもユルい自治体は、まあ他のものと一緒ならいいかとか。担当者がヘビースモーカーだったら、タバコがなければ日常生活に支障が出るって解釈が通りやすい(笑)。

 

さらに、解釈の幅が時期によって変わります。介護保険が始まった当初は、とにかく保険料を徴収しているわけなので、「保険あってサービスなし」という不満が高まらないよう、事業者の参入やサービスの利用が促進されました。その後、利用が増えた結果、今度は逆に厳しく締め付けられるようになった。

 

象徴的なのがコムスンです。それまでは通用していた援助の内容が認められなくなり、スケープゴートとして潰されたという面もあります。一番キツかったのが2006、07年ころで、さすがに叩き過ぎ、介護の担い手がどんどん辞めていく事態を前に、民主党への政権交代もあって少し緩んできました。

 

たとえば、「散歩」は原則介助できませんが、「一律機械的に禁止ではない、ケアプランに自立支援のためと理由づけができれば認められうる」ということを、厚労省は都道府県に通知しています。先述の同居家族のいる場合についても、すべて禁止ではなく利用者と家族の状況に応じて個別に判断するようにと3回も通知が出ている。

 

意欲的なケアマネジャーや話の通じる役所の担当者がいると、個別に認められる事例が積み重なっていきます。ひところよりは、同居家族の事情も幅広く勘案されるようになってきました。ただ、一度締め付けられた経験があるので、現場の事業所はあまり積極的にやろうとはしません。とくにヘルパーの散歩介助を行っている例は全国でも稀でしょう。

 

デイを使えとか、根拠を詳細に書くよう言われるので、そんな手間をかけるよりは、利用者にダメと断った方が早い。また風向きが変わったら行政の実地指導が入って、報酬返還を迫られるのではないかという恐れもあります。いまはそういった自主規制がすっかり定着しました。実際、自民党は公助ではなく自助を強調しており、それが選挙で支持されたわけですから、今後はまた厳しくなるでしょうし、家事援助自体が保険の対象外となる可能性もあります。

 

 

自立の意味合いが異なる「自立支援」

 

以上は介護保険での話ですが、障がい者の方の制度になると、また事情は異なります。介護保険では同居の家族分の調理や洗濯などはできませんが、たとえば40代の女性障がい者の家事援助で入ったときには、子どもの世話や家族の分の食事の仕度をすることがあります。本人の意思で行いたい家族分の家事をサポートするのもヘルパーの仕事になります。

 

また、外へ出かけるのは「移動支援」(ガイドヘルプ)といって市町村の地域生活支援事業として行われており、行事でも遊びでも外出先は問いません。社会参加として考えられているからです。同じ障がいのサービスでも、「居宅介護」という短時間の身体介護・家事援助と、重度の身体障がい者が使える「重度訪問介護」という長時間の類型では異なり、後者はより自由に利用者本人の意思に従った支援を行います。

 

その背景には、施設や家を出て、在宅での自立生活を権利として実現させてきた障がい当事者運動の理念があります。Kさんの望む「自分らしい生活」、お部屋の模様替えや家具の組み立てなども、この類型ならできます。

 

もっとも現状の「重度訪問介護」は利用できる人が限られています。自立支援法の改定に合わせて来春から対象が拡大される予定で、いま議論をしている最中ですが、知的障がい者や精神障がい者など、どこまで含むか注目されます。

 

障がい者のサービスは、介護保険の訪問介護を主にやっている事業所が数件だけ入るというケースが多く、介護保険のルールを持ち込むために互いに戸惑ったりします。正当な生活の要望でも、高齢者に比べて訴えが強いと敬遠されたりするんですね。逆に、障がい当事者が運営している自立生活センターなどの事業者は、介護保険に障がいのルールを持ち込むと、かなり緩くてコンプライアンス的にどうかという場合もあります。

 

高齢者も障がい者もヘルパーの役割は「自立支援」ですが、自立のもつ意味あいが異なります。高齢者の場合、主に日常生活をなるべく自分で行うことを指し、障がい者の場合は――特に身体障がい者ですが――、本人がヘルパーを使いながら自己決定して暮らしていくことが核となっています。ヘルパーの自立支援といっても一様ではないんです。

 

さらに、障がい者の場合は地方と都市部との格差も著しい。介護保険は要介護認定があって、要支援1~要介護5まで7区分の判定がされ、それぞれ全国一律の給付上限額が決まりますが、障がいの方は障がい程度区分1~6について、国の負担規準を参考に、市町村ごとに支給量や超過できる範囲などが決められています。

 

自治体の決める支給時間数が1日24時間、一部複数のヘルパー配置までの介護保障を実現しているところもあれば、数時間に限定されているところもあります。障がい当事者や支援者が交渉し、必要性を訴える力量にも左右される。逆に時間数は保障されていても、都市では担い手となるヘルパーがいなかったりします。とくに「重度訪問介護」は報酬単価が低いため、行う事業所が限られている。

 

もちろん地方ではそもそも事業者が少ない。地域のヘルパーは社会福祉協議会や大手の社会福祉法人しかやっていない場合もあり、そこがたとえお役所体質で質が充分ではなくても、ほかの選択肢はありません。民間ではできないインフラをつくっているともいえますしね。

 

ちなみに、介護保険でも障がい者サービスでもなく、難病患者等ヘルパーという制度もありますが、これを実施している自治体は全国の1割にも満たず、利用はごくわずか。対象者は750万人もいるのに、使った利用者は全国で300人余りという恐るべき数字が出ています。すでに障がいの制度に乗っかっている場合もあれば、使えるのに知られていない現実もあります(*3)

 

*3 難病患者等居宅生活支援事業の利用実績について 平成22年度(厚生科学審議会疾病対策部会資料)

 

ともあれ、65歳を境に高齢者には社会参加が認められなかったり、障がいの程度や病気の種類、住んでいる場所やタイミングで、生活支援の格差が生じているのは、とっても不合理な面があります。そもそも、制度で認められる範囲をめぐって、日常と非日常の境は何か、お酒を呑むのは日常生活か、散歩するのは何のためか、なんて議論を大真面目に役所と交わさないといけないこと自体が、とってもシュールですよね(笑)

 

 

なぜ制限が設けられるのか

 

―― 各制度による違いはわかりましたが、このような制限はなぜ設けられているのでしょうか?

 

やはり一番にあげられるのは財政の問題だと思います。どこかで線を引かなければ、制度の利用が際限なく広がってしまうという思い込みがある。国の財政は今でも42兆円の税収に対して90兆円も歳出しているわけですから、借金してまで行うことは何かってことでしょう。そして限られた人的資源であるヘルパーを、広く薄くなるべく公平に使っていこうという考えです。

 

利用者にとっては不満でしょうが、ヘルパーもやりにくいと思っています。ただ、ヘルパーも決められた時間と報酬で動いているわけなので、歯止めがあることで過重な負担から何とか免れている面もあります。以前は家政婦と同じように誤解する人もいましたが、最近はやっと自立支援の専門職と見なされるようになってきました。それがまた行き過ぎると、双方にとって抑圧になりかねないので難しいところです。その人らしい生活をトータルに支えられるようにするためには、現状の制度の枠組みではどうしてもムリがあります。

 

介護保険はいろいろ批判もありますが、わたしは非常に貴重で画期的な制度であったことは間違いないと思っています。誰もが介護を受けたり、介護をする側になる可能性があり、お金を出し合って支え合おうという趣旨は非常によいものです。そのおかげで崩壊を免れている家族や地域も少なくありません。ただ、介護保険の使い方はやっぱりよく考えないといけないと思います。生活援助の報酬単価は1時間2,500円。利用者は1割負担の250円で使えますが、残りの9割は税金と保険料で賄われています。

 

デイサービスも送迎とフロ付きで1日10,000円かかっていますが、9,000円は税金と保険料が投じられている。街中では送迎車をたくさん見かけるようになりました。地元のお年寄りを根こそぎ集めているようにも見えます。事業所数は全国で8,000ヶ所から10年で26,000ヶ所まで3倍以上に増えました。それだけ、隣近所の支え合いの力が弱まっている。世の中全体が忙し過ぎて効率ばかり求めるので、認知症や障がいをもつ人をどこかにやらないと成り立たなくなっているというのも大本の問題としてあります。

 

介護保険の保険料は、2000年4月の施行当初、被保険者の負担増を軽減、というか先送りするために、半年たった11月から半額(月々1,500円弱)の徴収が始まり、1年半後にやっと全額になりました。いま被保険者は65歳以上3,000万人、40歳~64歳4,200万人にのぼり、月々5,000円近くの保険料を払っています。要介護認定を受けている人は、65歳以上で485万人。利用者のほとんどは、払い込んだ保険料よりも給付が圧倒的に多いんです。

 

40歳~64歳では16の疾病をもつ人に限られるため、利用者はわずか15万人。現役世代にとってはたしかに身内を介護する負担が軽減されている面はあるのですが、負担と受益の関係を考えると、もっと若年者の介助ニーズに応えるものになってもいいように思います。医療保険でも負担割合が1割から3割へと増えていったように、介護保険も将来負担が増えるのは間違いありません。いまのような使い方ではもたないでしょう。

 

 

 

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