“自分らしさ”をケアするのは誰か ―― ホームヘルパー、制度と日常を越えて

こうなったら、助かるズ!

 

―― ヘルパーにとっての「こうなったら、助かるズ!」はありますか。

 

やっぱり、誰もが当事者意識を持つということでしょうか。困ったときの支え合いのために、ヘルパーといった職業的に担われるものは、本当はごく一部じゃないかと思っています。

 

たしかに、利用者の変化に伴って、認知症の行動障がいが強かったり、医療ニーズが高かったり、家族関係など複合的な課題を抱えているケースが増えており、ヘルパーに求められる役割は大きくなっています。そしてそれに見合ったヘルパーが不足しており、質が低かったり融通の利かないことに我慢されている利用者も少なくないと思います。事業者としてきちんと教育研修する責任もあります。

 

一方で、ヘルパーという仕事の評価を、低い報酬のまま周辺的な労働に位置づけつづけている社会の価値観もあります。まるで生産性のない、後始末といった見立てがまだまだまかり通っています。

 

わたしは“介護の社会化”とともに、“社会のカイゴ化”が必要と考えていますが、誰もが老い、障がいをもつことが身近になり、身内や友だちを介護することもありふれてくる社会では、そういった人たちを排除しないですむようなあり方へ、働き方や暮らし方が変わっていくことが望まれます。そのなかで、自ずとホームヘルプがきちんとした誇りのもてる仕事として認められ、働く条件が整うととても助かります。グレースケアで取り組んでいるのもそのためです。

 

ひと昔前なら、ちょっとした手伝いなら、隣近所で声をかけて助け合っていた部分が大きかったでしょう。何でもかんでも税金でやるわけにいかないのなら、家族や地域で補い、支え合う必要があります。今後、高齢者はどんどん増えていくのに、今でさえヘルパーが不足しているわけですから、担いきれるわけがありません。一方で家族や地域の力も弱まり、単身で何とかしないといけない人が増えています。

 

社会保障給付費の内訳をみると、年金が5割を占め54兆円、医療が35兆円、介護は8兆円、障がい者福祉は3兆円です。介護のような相対的には小さな支出のところで、こまごまとヘルパーと利用者が揉めながら、日常生活をめぐる役人向けの作文を整えて、どんなに抑制に努めても知れていますし、介護の担い手のやる気を削ぐことにもなる。年金は生活費の現金給付とすれば、個人がどう使おうともちろん勝手なわけですが、みんなから集めた税金や保険料が投入されていることを考えると、これからはむしろ「社会からのお給料」とみなして、年金受給者には地域の支え合いに役立つ仕事をして頂くという発想もありではないでしょうか。

 

国民年金のみではとてもそんな余裕はない! と怒られそうですが、厚生年金の平均額は月17万円、元公務員だった人の共済年金は22万円です。ちなみに現役ヘルパーの給与の平均は時給の人で月10万円(78時間勤務)、月給で20万円。ヘルパーの仕事をしていると、利用者とのあいだで格差社会をしみじみ感じさせられることも少なくありません(*4)

 

*4 平成23年度介護労働実態調査(介護労働安定センター)

 

実際、知り合いのNPOの女性は70代で、有償ボランティアや介護事業の専従としてフル回転していますが、年金をもらっているので団体からは5万円しかもらっていないとのこと。ぼやきながらも、そういった活動をしていること自体が張り合いになり、自ずと健康維持と介護予防につながっています。

 

また、実際に身体を動かさなくても、お金の使い方を少し変えるだけでもいいと思います。国の分配機能が硬直化しているとしたら、あとは思いのある高齢者が、自らの判断でもらっている年金を分配し直すしかありません。社会保障費の一部を託されている立場として、海外の観光地へのバラマキや、子や孫への思いやり予算は減らして、地元の支え合いグループや、わたしたちのようなケア専門職のNPOにお金を使ってもらえると、次代の生活支援や介護の担い手という公共インフラの整備につながります。

 

敗戦後の焼け野原から働きづめで、日本の高度経済成長を担ってきた人たちには、本当に心から敬意を表します。ただ、その結果として、下支えしてきた家族や地域の機能が弱体化してしまった面があります。これからは新たな社会的なつながりや支え合いを高度成長させていく時代になります。とりわけ大企業を勤め上げた方や、公務員だった方には、退職したら厚労大臣になった気分で張り切って頂きたいと願います。社会保障の将来がその使い道にかかっています。天下りが規制される前に、いくつかの法人を回って退職金もがっちりもらって逃げ切れた人には、特に期待しています(笑)。

 

 

自分らしく生きるための新しいつながり

 

―― 制度を変えずに発想を変えるだけで、ものすごいパワーが生まれますね。

 

ヘルパーの3割は60代だったり、家族介護者に至っては6割以上が60代以上であることを考えると、実際の介護を支えていく力として年金世代のパワーはとても重要です(*5)。そうやって介護や生活支援にかかわる人の裾野を広げられたらいいと思います。

 

*5 *4及び平成22年国民生活基礎調査(厚生労働省)

 

はじめにあげた通知では、家事援助に制限を設ける反面、保険外の部分は「市町村の独自事業やNPOなどの住民参加型サービス、ボランティア」で対応するように謳っています。知り合いのケアマネジャーは、「何を寝ぼけたことを言ってるのか? 保険外を担うのは家族かカネよ!」と喝破していました。

 

たしかに、地元のボランティアグループなどは、利用者よりも高齢化して担い手が不足していたり、家事に加えて認知症や障がいに関わるニーズも併せてあると、対応しにくかったりします。そこでわたしたちの自費サービスに依頼が回ってくることもあります。認知症の方に長時間付き添ったり、家や施設から車いすで遊びに出かけたり、最期を家で過ごすお手伝いをしたり、何でも自由に使うことができ、1時間3,000円の利用料を頂いていますが、依頼はどんどん増えています。

 

有料老人ホームの入居金に数百万円払ったり、ブランドのある都心の病院に療養名目で入り、月に何十万円も支払っている方もいます。それほどではなくても、特養などの福祉施設に入ると外出は年1回の花見、楽しみは月1回の行事といった暮らしで、年金だけが百万円単位で貯まっている人もいます。そんな方が、たとえばグレースケアを利用すれば、介護保険も併用しながら、家で好きなことをして過ごすことができ、一緒にどこへでも出かけられる。指名制のヘルパーは2割増ですが、一芸に長けたヘルパーを選んでもらうこともできます。利用する人も楽しいし、わたしたちヘルパーも報酬をよりよくして、個別ケアの底上げを図っていくことができます。

 

ただ、ちょっとした家事のお手伝いや、談笑して一緒にご飯を食べるなど、あえて専門職が介入しなくても、隣近所でできることもたくさんあります。昨年、グレースケアでは、市内の退職者や認知症の家族会、子育てグループなど9つのNPOとともに、古い居酒屋の建物を借りてコミュニティカフェとサロン活動を始めました。いろいろな世代の市民が集まり、繋がり、そして支えあうきっかけになっています。デイサービスで9,000円の保険料と税金を使わなくても、300円のお茶代で、いろんな人と日がな過ごすことができる。また、それとは別に民生委員さんや住民協議会、町内会、商店会などが集まった市の地域ケアネットワークの立ち上げにも参加しています。

 

家族でもカネでもない、制度や専門職だけにも頼らない、新しいつながりが始まっています。制度も大事ですが、地域でできることはもう自分たちでやっていった方が、気ままで早いし、何より楽しいです。そういった人と人とのつながりのなかで、自分らしい生き方自体も再発見されてくるのではないでしょうか。

 

(2012年12月10日 NPO法人グレースケア機構事務所にて)

 

 

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