フェイクニュースに騙されないための《社会調査》のすすめ

ダメな調査って?

 

荻上 「ダメな調査」というのはどんなものだと思いますか?

 

筒井 基本的に、メディアが行う世論調査などはダメなものが多いという印象です。なぜなら「こういう結果が出て欲しい」という願望があるから、質問の仕方によって誘導してしまう可能性があるからです。また、調査のプロセスがきちんと示されていないものが多いので、真偽の判断ができない。

 

ただ、量的調査は意外と難しいところがあります。例えばアンケートの質問項目の中で聞いておくべきポイントが抜け落ちていたり、回答に困るような質問が入っていたり。プロの研究者でも間違えることがあるんですね。

 

僕も一回、大きな間違いをしたことがあります。それは女性の職業に関する調査だったのですが、「正社員か非正社員か」だけでなく、「正社員の中でも一般職なのか総合職なのか」、どちらかを選ばせるような質問をしたんです。ところが返って来た結果を見てみると、多くの人が未回答だったんです。というのは、一般職と総合職の区別がない企業で働いているケースを見落としていたんですね。

 

ですから、アンケートを作る時に一番大事なのは、想像力だと思います。対象者の生活をある程度思い浮かべないといけない。

 

荻上 土地勘みたいなものですよね。アンケートを作成する際には、当事者やその世界のことを知っている人に話を聞いた上で一緒に項目を作成していくと、良い量的調査になる。一方で、メディアの人は記者目線でアンケートをとることが多いですよね。

 

筒井 お金をかけて調査をする場合はプレ調査といって、事前に何人かにヒヤリングを行った上で、対象者が迷わず答えられるような質問項目を作っていきます。ただ、お金や時間がないと難しいですよね。

 

荻上 誰に聞くかという問題もあります。ときどき、有名な大学教授の方でも「私のゼミ生50人に聞いた結果、今の若者の傾向は……」なんて言っていることもあって、一体そのゼミ生が若者全体の何を代表しているのかと、げんなりします。

 

 それは、そもそも代表性という概念をちゃんと理解しないと浮かんでこない疑問ですよね。つまり、その調査自体を疑う。それができるのが、量的調査を学ぶ一つの利点だと思います。

 

一方で質的調査というのは、代表性がもともとないんですね。ただ、描き方には注意が必要です。例えば貧困をすごく悲惨に描いてしまうとか、戦っているたくましさを際立てて描いてしまうとか、描くスタイルがすでに決まっている調査や作品は、読んでいてもったいないなあと思いますね。あるいは、逆に構築主義者の、ごく一部の方で、差別と戦ってきた経験を語る人に対して「それはありきたりのモデルストーリーだからダメ」と言う人もいる。でもそれはそれで、一方的な解釈のゲームになっているところがあるんです。もちろん、研究者の解釈を完全に除外するのは無理ですが、なるべく一概には言えなくしていくことが大事なんですね。

 

荻上 特に質的調査では、調査をする人の価値観がより反映しがちな面があるので気をつけないといけないですね。

 

 どれくらい現場を見ているかによると思うんです。わかりやすいストーリーに落とし込んでいく人は現場をあまり見ていないような気がします。深く関わっている人ほど、簡単な語り方を絶対にしないんです。

 

荻上 例えば弁護士の方が、自分の事務所に相談しにくる人の傾向だけを見て発言している場合もありますが、自分が社会的にどう見られているかによって、すでにサンプルが変わっているんだということも考えないといけないですよね。

 

岸さんがこれはダメな聞き方だ、と思うことはありますか?

 

 うーん……逆に教えて欲しいくらいです(笑)。ただ、学生にいつも言っているのは「一問一答になるな」とかですね。『質的社会調査の方法』(有斐閣)に詳しく書いたのですが、大切なのは「ピントを合わせない集中」だと思います。その時々の語りに集中するんだけど、同時に全体も見る。また、あらかじめインタビューの準備はするのだけど、その場になったら全部捨ててアドリブでやりなさい、とも言っています。

 

荻上 これまで質的調査をする中で「これは失敗したな」と思ったことはありますか。

 

 失敗とか成功とか、あまり考えたことはないですね。もちろん人間対人間なのでトラブルはありますが、それでも毎回、勉強になったな、いい話聞けたなと思っています。ただ、ここ20年くらいの社会学では「語りはストーリーだから事実じゃないんだ」ということを言い過ぎてきたので、これからは愚直に事実を蓄積していこうよ、と言っていきたいですね。量的調査をされている研究者や、歴史学者の方々とも一緒に研究を進めていきたいです。

 

 

岸氏

岸氏

 

 

社会調査を学びたい人におすすめの一冊

 

荻上 ここからはゲストのお二人に、社会調査に興味を持った方のためにおすすめの本を一冊ずつ紹介していただきます。まずは筒井さん、いかがでしょうか。

 

筒井 量的調査に関する本は教科書だけでも100冊はあるかと思います。その中で、とっかかりとして読みやすそうなものといえば、谷岡一郎さんの『「社会調査」のウソ――リサーチ・リテラシーのすすめ』(文春新書)という本です。

 

 

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統計の嘘を見破るためには、やはり統計を学ぶしかないです。そして、「意外と調査って面倒くさいんだな」、「こういうプロセスで調査をするのか」と、内実をある程度知る必要があります。それを含めて学ぶことのできる本だと思います。

 

荻上 嘘を見破るためにしっかり調査するのは意外と大変で、だからこその発見の素晴らしさに気づかせてくれる一冊ですよね。岸さんの推薦する本はいかがでしょうか。

 

 上間陽子さんの『裸足で逃げる』(太田出版)という本です。これは今年出版されるエスノグラフィの中でも大事な一冊になると思います。沖縄に住むシングルマザーやキャバクラ嬢など、非常に厳しい状況の中で生きている若い女性たちの姿が描かれています。ただインタビューをしているというより、彼女たちと共に暮らした記録なんです。

 

 

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登場する女性たちは経済的にも厳しい状況だし、暴力に満ちた地域や家族の中で生きているのですが、この本の描かれ方は「かわいそう」でも「たくましく頑張っている」でもないんですね。非常に深刻なエピソードを重ねながらも、ものすごく描き方が優しんです。被害の話よりも、15、16歳の女性がその中でどうやって一歩を踏み出し、今を生きているのかが書かれています。

 

それに、これは沖縄で行ったフィールドワークなのですが、上間さんは女性たちの中に深く入り込んで、関係性をしっかり作った上で書かれているので、普遍性が出ているんです。沖縄だけの話ではなくて、世界中でこういう女性がたくさんいるんだろうなと思わせる本だと思います。

 

荻上 リスナーの方からこんな質問が来ています。

 

「私は美容室で働いていますが、お客さんとの会話の中から学ぶことが多々あります。特に、戦争を体験した方から体験談を聞くことがあります。お店に何度も通っていただくうちに信頼感が生まれ、お客さんから何気なく話をしてくれることが多いです。こういった会話を社会調査として成り立たせるためには何が必要でしょうか。」

 

 素晴らしいです。ぜひ、自分だけのノートにでもいいので、書いて残しておいてほしいです。僕はいつも学生に、自己流でいいので、出会った人々や自分のおじいちゃん、おばあちゃんから聞いた話はとにかく書き残しておくように言っています。

 

荻上 まさにこのメールの方と同じような状況で、介護現場で働きながら聞いた話をまとめた『驚きの介護民俗学』(六車由実 著、医学書院)という本があります。これも素晴らしい本です。ぜひ、聞いた話を書き留めることから始めてみてほしいですね。

 

他にも、こんなメールが来ています。

 

「ネットを利用した社会調査は、信用に足りる結果を導き出し得るのでしょうか?」

 

筒井 やり方によります。とにかく、正しい情報を導き出すには、お金も時間もかかるんです。とりあえず、ネットなどによる調査結果が出てきた時にやってほしいのは、判断留保です。ひたすら、データが蓄積するまで待つことが大事だと思います。

 

荻上 最近は「スローニュース」といって、ゆっくりニュースに触れ合おうという提言もされたりしています。研究者によるデータを待っても遅くはない場合もたくさんありますからね。そうした意味では、自分が調査をしていなくても、調査は意外と難しいんだと知っておくことも大事かなと思いました。筒井さん、岸さん、ありがとうございました。

 

 

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質的社会調査の方法 -- 他者の合理性の理解社会学 (有斐閣ストゥディア)

著者/訳者:岸 政彦 石岡 丈昇 丸山 里美

出版社:有斐閣( 2016-12-19 )

定価:

Amazon価格:¥ 2,052

単行本(ソフトカバー) ( 272 ページ )

ISBN-10 : 4641150370

ISBN-13 : 9784641150379


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シノドス国際社会動向研究所

vol.222 特集:沖縄

・仲村清司氏インタビュー「変わる沖縄——失われる心と『沖縄問題』」

・宮城大蔵「静かに深まる危機——沖縄基地問題の二〇年」

・北村毅「戦争の『犠牲』のリアリティー:当事者不在の政治の行く末にあるもの」

・神戸和佳子「『わからなさ』の中でいかに語り考えるのか——沖縄をめぐる哲学対話の実践から」

・山本ぽてと「沖縄トイレットペーパー産業史」
・齋藤直子(絵)×岸政彦(文)「Yeah! めっちゃ平日」