2023.08.24
放射線被ばくと甲状腺がんとの関連はなし・将来的にも見られない――甲状腺検査評価部会まとめ案
原発事故後、福島県では原発事故当時18歳未満だった全県民を対象に甲状腺検査が実施されています。甲状腺検査は、原発事故による放射線の甲状腺がん発生への影響の有無を調べる医学調査です。調査の結果は福島県「県民健康調査」検討委員会の下部組織甲状腺検査評価部会が解析を担当し、現在5回目まで実施されている甲状腺検査の1回目~4回目の結果をもとに、2023年7月28日に3回目の部会まとめを公表しました。部会長は医療法人 保内郷厚生会保内郷メディカルクリニック(茨城県)の鈴木元氏です。
ポイントは以下の通り。
①2回目よりも明確に放射線被ばく線量と見つかった甲状腺がんとの関連がないことが分かった。
②今後も見つかる甲状腺がんと放射線被ばく線量との関連は見られない可能性が高い。
まとめ案は「今回の解析ではより明確に被ばく線量の増加に応じて(甲状腺がんの)発見率が上昇するといった一貫した関係(線量・効果関係)がないことを示すことができた」「 これらの解析結果に加えて、全体的に被ばく線量が低いことから、今後も一貫した関係(線量・効果関係)が認められない可能性は高い」との見解を示しています。
福島県が設置した甲状腺検査評価部会は、これまで二度まとめを作成、いずれにおいても見つかった甲状腺がんと原発事故による放射線被ばくとの関連は確認できないとしています。
今回の案では検査1~4回目の結果について、
①がん登録制度を活用して甲状腺検査の細胞診によって診断されなかった症例を含めて解析した。
②県民一人ひとりについて被ばく線量をシミュレーションし、それを使った症例対照研究を追加した。
ことによって、「解析手法において一定の確立を見た」としています。
この結果、2回目まとめの段階に比べ、今回の解析ではさらに明確に、見つかった甲状腺がんと原発事故による放射線被ばく線量との関連がないことを示せたといえるでしょう。
さらにまとめ案は、福島県全体において原発事故による放射線被ばく線量が低いことから、今後もがんと被ばく線量との関連は見えてこない可能性が高いとも報告しています。
また見つかった甲状腺がんについては、「症状のない人を対象として広く実施した精密な超音波検査の結果、生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながんを過剰に診断している(編集部注:過剰診断)のか、将来的に症状をもたらすがんを早期発見しているか(編集部注:前倒し診断)のいずれか、または両方の効果によるものである」としています。
参考リンク
第21回甲状腺検査評価部会
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-b21.html
福島で見つかる甲状腺がんは放射線被ばくとの関連がない
https://synodos.jp/fukushima-report/22744/
続・福島の甲状腺がんと放射線被ばくに関連なし――福島県「県民健康調査」検討委員会
https://synodos.jp/fukushima-report/22873/
UNSCEAR2020年報告公表――「福島の住民の放射線被ばくの健康影響は今後も考えられない」「甲状腺検査の過剰診断を指摘」
https://synodos.jp/fukushima-report/24173/
福島の子どもの放射線被ばくは甲状腺がんのリスクを上げるレベルではない
https://synodos.jp/fukushima-report/23581/
福島の甲状腺検査にはどんな害があるのか?
https://synodos.jp/fukushima-report/23062/
疫学調査として破綻している――福島の甲状腺検査の意義を問う/津金昌一郎氏インタビュー
https://synodos.jp/fukushima-report/28592/
甲状腺検査はリスク評価を攪乱する――疫学からみた福島の甲状腺検査/祖父江友孝氏インタビュー
https://synodos.jp/fukushima-report/22977/
UNSCEAR最終報告・福島の住民への放射線被ばくによる健康影響は見られない/明石眞言氏インタビュー
https://synodos.jp/fukushima-report/28158/