日銀がいかに仕事をしていないかが分かる、たったひとつのグラフ

日銀はあとどれだけの規模の「量的緩和」を行うべきか

 

かくして、日本経済が復活するために日銀がとるべき政策は、「2~4%のインフレ目標政策」と「ゼロ金利政策」とともに、 「“追加で”50~100兆円のベースマネーを市場に追加供給する『量的緩和政策』」であるということが言えるわけである。

 

「50~100兆円の量的緩和」と言えば、何だかあまりにも規模が大きすぎて、よろしくないことが起こるような気がしてしまうが、そのよろしくないことがもしもハイパーインフレのことを指しているとしたらやはり、「ではなぜアメリカでは、4年という短期間のうちに140兆円もの量的緩和政策を“追加で”行なってなお、ハイパーインフレなど起こらず、適切でゆるやかな2%程度のインフレしか起こっていないのか?」をよくよく考える必要があるだろう。

 

その答えは、「どれだけの“規模”の金融緩和を行えば、どれだけのインフレが起こるか? は、事前に“ある程度は”マッカラムルールからわかる」ということと、「金融緩和の規模を“適切に”管理すれば、目標とする適切で緩やかなインフレを起こすことができる」ということである。それはつまりは、日銀の量的緩和という名の金融緩和の是非を判断する場合、まずひとつの指標としてまず重要なのはその“規模である”ということである。なぜなら、このベースマネー拡大の規模は、市場の側が「その中央銀行がどれほど本気で金融緩和を行っているか?」を測る際の資料になるからだ。

 

もしも今後マスコミや識者などが「日銀の大規模金融緩和によって『インフレは起こせない』と言っていたり、逆に『ハイパーインフレが起こる』」などと言っている場合、「その論者は金融緩和(ここでは量的緩和)の“規模の話”をちゃんとしているか?」という視点で眺めてみるといいだろう。

 

そこでその論者が「規模の話をしていない」としたら、その論者は「直感とか勘で金融政策の話をしてしまっていて、その論者の話はかなり眉唾な話だ」と見ることができるようになる。 (引用ここまで)

 

*  *  *

 

かくして、もし「日本では大規模な金融緩和に効果がない」という論者がいるとしたら、その論者は「ではなぜアメリカでは大規模金融緩和の効果が出ているのに、日本でだけ大規模金融緩和の効果がないと言えるのか?」について、有用な論証をする必要にせまられるのである。

 

そして、ここまで中央銀行の金融政策の“規模”の話について論じてきた上で、「日銀はちゃんと金融緩和を行っているか?」と問われれば、明確に「否」ということができる。

 

しかし実際には、このマッカラムルールからの推計値は、「“大体”どのくらいのベースマネーの規模の拡大が必要か?」はわかるが、実際そこまで必要か? もしくはそれ以上必要か? は、確かに(目安としては有効だが)厳密に推定できるものでもない。しかし、マッカラムルールからの数字は、目安として使える程度で構わないのだ。

 

なぜなら、筆者が提唱している、日本人が貧乏になるのを防ぐための(=脱デフレのための)日銀による「ゼロ金利政策の継続」「+2~4%のインフレ目標政策の導入」「最低限、マッカラムルールから導出される数値レベルまでの大規模量的緩和の実施」という3つの策からなるリフレーション策は、それによって、「日本はこれでデフレから脱する」という市場の予想転換を引き起こすためのものであるからだ。そして最終的には、市場全体のプレイヤーの行動を(脱デフレ方向に)転換せしめることを目的とした政策が、筆者が提唱している三段階のリフレーション政策の目的なのだ(経済学の世界ではこれを、政策のレジーム・チェンジと呼んでいる)。

 

もしも、マッカラムルールから想定していた規模までベースマネーを拡大しなくても、予想の転換を呼び起こせるのであれば、その時はそれ以上ベースマネーを拡大する必要はないし、その逆もまたしかりである。実際、リーマンショック後に、FRBのバーナンキ議長がまさに、「アメリカの予想インフレ率の低下を防ぐには、通常規模の(マッカラムルールから算出される)ベースマネー拡大の規模よりも、さらに大規模なベースマネーの拡大が必要である」と考え、実際にそのように大規模な量的緩和(=ベースマネーの拡大)を行なってみせたことが、この記事の2つ目のグラフから見て取れるのである。

 

では「中央銀行の政策ルールの転換に伴う市場の側の予想の転換とは何か?」……という話をここでしたいのだが、あまりに長くなってしまうので、ちょうどこのシノドスジャーナル上で、「市場の予想と金融政策の関係」を、駒沢大学経済学部准教授の矢野浩一さんが的確におまとめになっているので、その記事を紹介することで解説にかえさせていただきたい。

 

1.「二つの悪」の悪い方と戦う ―― リフレーション政策と政策ゲームの変更 矢野浩一

https://synodos.jp/economy/828

 

2.リフレ政策とは何か? ―― 合理的期待革命と政策レジームの変化 矢野浩一

https://synodos.jp/economy/802

 

つまりは、今回のこの記事で筆者(村上)が言いたいことは、次の二つの話である。

 

1.「日銀は十分に金融緩和を行っている」とするのは、マッカラムルールから見ると妥当とは言えない。

2.もし「日銀の金融緩和の規模は十分である」と言い出せるのは、“最低限”マッカラムルースから推定される規模のベースマネーの供給量を、日銀が供給するベースマネーの量が超えてからであろう。

 

……といった形で、拙著『日本人はなぜ貧乏になったか?』(中経出版)のなかでは、「日本人はなぜ貧乏になってしまったのか?」にまつわる「21の通説」とそれに対する「真相」を、豊富なデータをもとに分析し、「日本をいままた世界の経済大国へと返り咲かせるチャンスである『アベノミクスとはなにか?』」を可能な限りわかりやすく、詳細に解説している。

 

P.S.

また、前回の筆者のシノドスジャーナルに掲載させていただいた記事(https://synodos.jp/economy/551)に対して、池田信夫さんより次の反論をいただいた件(http://blogos.com/article/55259/)についてとりあえず一言。

 

筆者の前回の記事は「アベノミクスでバブルが起きるは本当か?」ということを主眼に書いたわけで、「日銀は十分に緩和をしているか?」について書いたわけではない。そのためもし池田さんに前回の筆者の記事に対して反論をいただくとしたら、まず「リーマンショック後に、大規模な金融緩和を行ったアメリカでバブル的状況など起こっていないのに、なぜ日本でだけ大規模な金融緩和を行えばバブルが起こるのか?」についての論証をいただきたいと思う。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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