第一次産業の復興と東北の課題

飯田 「復興アリーナ」ローンチシンポジウム第二部では、第一産業の復興と東北の課題について考えていきたいと思います。

 

重被災地である岩手、宮城、福島の三県は、他県に比べて第一次産業の産業シェアが高い県として知られています。東日本大震災では、このような日本全体の食料供給基地のひとつが甚大な被害を受けてしまいました。

 

当該地域では、第一次産業には分類されないものの、第一次産業と密接に関わりのある食品加工業や流通業も大きな地位を占めています。第一次産業の復興を考えるとき、第一次産業そのものの復興だけでなく、こうした周辺にある産業についても同時に考えなくてはいけません。

 

さらに、特に沿岸部では、第一次産業での活動がコミュニティを形成の核であった点にも注目する必要があります。経済・社会双方の核になっている第一次産業をどのように立ち上げ、それによって裾野である加工業、さらにはコミュニティを立ち上げていくのか。これは当該地域の復興を考える上でも、また今後の崩壊の危機を迎えることが予想される日本全国の地域経済・地域コミュニティにとっても大きな意味があると言えるでしょう。

 

そこで今日は、農業、漁業を語っていただくのに最も相応しい方と思いまして、雑誌『農業経営者』副編集長の浅川芳裕さんと、三重大学生物資源学部准教授の勝川俊雄さんにおいでいただきました。

 

 

マクロの視点でみた第一次産業の被害

 

飯田 まず勝川さんから、今回の東日本大震災の漁業に関する被災状況について、最初はマクロの視点でお話しいただければと思います。

 

勝川 今回の地震と津波によって、農林水産に莫大な被害がでたことは皆さんもご存知かと思います。実際にどのくらいの被害があったのかというと、少し前に推定された数字では、金額にして2兆3000億円程度の被害がありました。阪神淡路大震災の農林、水産の被害額900億円と比較しても、被害の大きさがよくわかると思います。特に津波による被害が大きく、漁業はだいたい1兆2000億円くらい。農業が8000億、林業が2000億くらいの試算になっています。

 

岩手県、宮城県は第一次産業が盛んというイメージがありますが、実は県内総生産に占める第一次産業の割合は、岩手県が4%、宮城県が2%に過ぎません。経済全体からみると、一次産業はあまり大きなウェイトを占めていない。しかし、これ無しでは成り立たない地域が多数存在します。例えば三陸沖のリアス式海岸は、交通のアクセスは悪いし、平地も少ないので、漁業以外の産業は成り立ちづらい。漁業が無ければ、人が住めない場所が多くあります。ですから漁業をきちんとしたかたちで復興していくことは、多くの集落を守るといった意味でも重要なことなんです。

 

飯田 ありがとうございます。では、浅川さんからもまずはマクロの視点からみた農業への被害を説明いただきましょう。

 

浅川 日本全体には460万ヘクタールほどの農地がありますが、今回、津波の被害を受けたのは2万4000ヘクタール、つまり日本全体の0.5パーセントくらいです。東北には農地がだいたい90万ヘクタールあるので、2パーセント強が被害にあっていることになります。また県別にみると、宮城県は沿岸部に水田が多いため最も被害が大きく、宮城県全体で10パーセントくらい。岩手県と福島県はそれぞれ数パーセントになります。

 

さらに個別で被害を見ていくと、3県で約3万農家が津波や液状化などによる被害を受けています。農地は設備産業なので、ビニールハウスの損壊や、水路やダムなどのインフラ、周辺設備の損害もありました。

 

 

ミクロの視点でみた第一次産業の被害

 

飯田 実際に被災地に入ってみると、思わぬところで農地の被害がでていることがわかります。もともと比較的水利がよくなかった土地では、灌漑をして水路を確保することで農業を可能にしています。このような農地の多くはいわゆる重被害地域ではないけれど、水路が破壊されたために水田が利用できなくなってしまっています。

 

メディアはどうしても津波を実際に被ったところに注目してしまいますが、このような細々とした被害もたくさん出ているんですね。それらが積み重なることで、当事者にとって大きな影響になっているのだと思います。

 

お二人は実際に被災地でいろいろな被害を見てきていらっしゃると思います。次はミクロな視点、お二人の経験という視点から見た被災地の状況をお伺いしたいと思います。

 

勝川 漁村地域では、津波と地盤沈下によって生産がほぼストップしています。

 

漁業は水揚げだけでなく、加工や冷凍などの設備があって、初めて成り立つものです。宮城県では、漁業者よりも加工・流通業者のほうが多かったのです。多くの加工流通施設は、津波によって流されてしまいました。さらに、地盤沈下によって土地そのものが使えなくなっていしまっています。この状況からどうやって戻していくのか、そもそも戻すことができるのだろうかと思いました。

 

第一次産業の漁師たちは、他の産業と比較すると手厚く保護されています。加工、流通業者は経産省の管轄で、経産省にとって、水産加工流通業はマイナーな分野であること、また、加工流通業者は補助金を貰いなれていないこともあって、十分に支援が受けられずにいます。

 

飯田 借金をして施設を作ったのに、借金だけが残ってしまった、二重ローン問題の話もよく聞きますね。

 

勝川 そうした諸々の問題を解決して、立ち上がっていくのは現実的に考えてかなり厳しいと思います。

 

先ほども話した通り、漁業は魚を獲るだけではなく、加工、冷凍し、消費地まで繋いでいかなくてはいけません。ですから、いろいろな連携も含めて立て直さなくてはいけないんです。そのためには漁師と周辺業者の協力が必要でしょう。しかし漁村地域は、漁師さんと加工業者の仲がすごく悪いケースが多い。つねに、競りを挟んで、対立関係にある。漁師は高く売ること、加工流通業者は安く買うことを考えていますから、長年溜まった不信感と不満がある。この状況で、協力して立ち上がることがなかなかできずにいます。

 

飯田 「水揚げしてもどうにもできない」と話をしている現地の人もいるなか、冷蔵設備や加工会社が動いていないのに、水揚げが始まっている港もあります。メディアだと、つい「水揚げが始まりました。復興の第一歩です!」で終わりがちになってしまう――しかしそれは象徴的な意味しか無いでしょう。

 

勝川 一刻も早く水揚げをして欲しいという気持ちもわかりますが、そこからどうやって消費まで繋げていくのかが重要です。水揚げするにしても、気仙沼では冷蔵庫を持っている人たちが軒並み被害を受けているので、水揚げをしても買うことができません。船の冷蔵装置が残っているので、船に魚を保存して、半分ずつ業者に買ってもらっています。そうやってだましだましやっている状況です。

 

 

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飯田 その方法では長期的に考えて無理がありますね。農業の場合は、どのような問題が見られましたか。

 

浅川 農業は畑に商品があります。それが津波によって流されてしまった。これが数100億の被害になりました。

 

また農業にとって燃料はとても重要です。燃料の塊と言ってもいい。農業は牧歌的なイメージを持たれがちですが、設備投資、電気代、燃料費はすごくシビアなんです。支払いがちゃんとできないといけません。ですから支払うことが出来ずに燃料が途絶えてしまうと夏のあいだに作物が枯れてしまいます。

 

飯田 燃料費に関して言えば、ハウス向けの燃料が届かないだとか、価格が高騰するといった問題もあったかと思います。

 

浅川 そうした問題に対処するために、横の連帯があったことはとてもよかったと思います。「どこそこの人が困っている」ということで、畜産農家同志ならトラックで餌を提供しに行ったり、あるいは燃料を農家の仲間同士でわけあっていました。畜産家同士、農家同士で互いのニーズが分かっていたので、支援する側と受け入れる側が助け合うことができたんです。またマスコミではあまり取り上げられませんが、燃料費が高騰したこともあって、技術革新が進んでいるところでは、廃油の活用方法を研究し始めているメーカーもあります。

 

 

 

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