護るために殺す?――アフリカにおけるトロフィー・ハンティングと地域社会

トロフィー・ハンティングの土地事情

 

トロフィー・ハンティングと地域社会の関係について考えるときに大きなポイントとなるのが、トロフィー・ハンティングがおこなわれる場所である。東や南アフリカ諸国では、主にゲーム・ランチ (game ranch) と呼ばれる私有地でおこなわれている。その所有者の中心となっているのは、植民地支配の時代にやってきたヨーロッパからの移民にルーツをもつ人びとである。

 

たとえば、私が南アフリカ共和国で出会ったゲーム・ランチのオーナーは、オランダ系移民のアフリカーナーであった。彼らの多くは、植民地時代に手に入れた広大な土地を、家畜を飼育する牧場として経営してきた。やがて、家畜に代わって野生動物を導入する者や、家畜と野生動物を一緒に飼育する者が現れた。オーナーは、このなかで野生動物を繁殖させ、客を呼び込んで撃たせることによって、経営を成り立たせている。

 

オーストラリアの映画監督ウルリヒ・ザイドルが2016年につくった「Safari」という映画は、まさにこのゲーム・ランチでのトロフィー・ハンティングを描いたものである(2018年1月に日本でも公開される予定)。こうした私有地のなかには、もちろん地域住民は居住していないが、その周辺には村落や街があるところもある。

 

 

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ゲーム・ランチのなかで飼育されているエランド(南アフリカ共和国)

 

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ゲーム・ランチを囲む電気柵(南アフリカ共和国)

 

 

一方、西・中央アフリカでは、トロフィー・ハンティングは、私有地ではなく国有地や共有地でおこなわれている場合が多い。たとえば、カメルーンでは、トロフィー・ハンティングをおこなうための狩猟区として、国有地が観光事業者に賃借されている。狩猟区は、東アフリカや南アフリカ諸国のゲーム・ランチとは異なり、柵などで囲い込まれておらず、排他的な私有地ではないので、なかには村落が存在する。トロフィー・ハンティングがおこなわれるエリアと村人たちの生活圏は一部重なっているところもあり、たとえば、獲物を探しに、ハンターたちが村の畑近くまでやってくることもあった。

 

 

トロフィー・ハンティングがもたらす地域社会への光

 

ここから、トロフィー・ハンティングと地域社会の関係の実例を紹介していくが、その前に、図1の「理想」とされる関係図を改めて見ていただきたい。トロフィー・ハンティングがおこなわれることによって生み出される経済的便益によって、住民たちは野生動物保全に積極的に参画することが想定されていた。その主な経済的便益である、税金の分配、雇用機会の創出、公共施設の提供の3つについての実態を見ていく。

 

まず、税金の分配についてである。1980年代後半以降、住民参加型保全モデルが台頭したことによって、トロフィー・ハンティングがおこなわれている各地で、ハンティングに関係した税金の一部を地域住民に還元する動きが出てきた。カメルーンでは、1994年に狩猟区の借地代の10%を周辺村落へ分配することが法規定された。しかし、分配が実際におこなわれるようになったのは2000年のことである。また、分配された利益のほとんどは村落内の有力者が享受し、地域内で平等に恩恵が行き渡っているわけではない。

 

つぎに、雇用機会の創出についてである。南アフリカ共和国やカメルーンで私がこれまで見てきたキャンプでは、20人ほどの地域住民が従業員として雇われていた。彼らのなかには、農業による収益はわずかで、ここでの賃金が年間収益のほとんどを占めるような者もいた。しかし、こうした(彼らにとっては)高額な賃金を得るのは、トラッカーや料理人、整備工のような要職に就いている一部の者であり、しかも、トラッカー以外は都市部からやってきた専門知識を持った従業員であった。

 

狩猟区のなかや私有地の周辺に住む村落住民は、経済的な理由から、都市住民のように専門知識を学ぶための学校に行くことができないため、ポーターや雑用係のような給与の少ない職にしかつくことができない。

 

最後に、公共施設の提供についてである。これまで調査をおこなってきたカメルーン北部には、村落に小学校や診療所を建設したり、机や椅子、ノートなどを供与する観光事業者がいた。これは、狩猟区の借地代の分配と同様に政府によって定められていることであるが、それは義務ではなく努力事項であった。そのため、まったく村落に公共施設を提供していない観光事業者もいた。

 

 

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花壇を整備する雑用係の青年(カメルーン)

 

 

トロフィー・ハンティングがもたらす地域社会への影

 

ここまでの分析で、理想とされたトロフィー・ハンティングと地域社会の関係を形成するのに重要とされた地域住民に対する経済的便益が、不十分かつ不平等であることが確認された。しかし、それ以上に問題視すべきことがあった。それは、地域住民の自然資源に対するアクセスが制限されたうえで、トロフィー・ハンティングがおこなわれていることであった。

 

カメルーンの場合、狩猟区のなかで狩猟をおこなうためには、狩猟ライセンスを取得し、獲物にかかる税金を納めなければならない。しかしながら、そのどちらも、海外からやってくる裕福なハンター客を対象として金額が設定されている。そのため、地域住民がそれらを納め、ハンター客と同じように狩猟をすることは経済的に不可能となっている。また、狩猟区の外であっても、地域住民が合法的に狩猟できるのは、ネズミのような小型の動物を、金属でできていない、こん棒のような猟具でおこなう場合のみに限られている。

 

南アフリカ共和国の場合、私有地のなかでも、地域住民とともに自然資源の利用・管理をおこなうプロジェクトが進められている地域もあるが(c.f. Kreuter et al 2010)、あくまで個人のビジネスとしてトロフィー・ハンティングがおこなわれている地域が多い。そのため、周辺住民がそのなかで日常的に合法的な狩猟をおこなうことは不可能である。

 

つまり、その土地に生息する野生動物の利用権は、海外からやってくるハンター客が実質独占している。さらに言えば、土地を所有あるいは賃借している観光事業者は、狩猟に限らず、トロフィー・ハンティングの妨げとなる農耕や牧畜も禁止しているため、地域住民による自然資源に対するアクセス権のすべてが剥奪されているといえる。

 

 

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牧畜も農耕も禁止することが書かれた狩猟区を示す看板

 

 

これに対して地域住民は、食料あるいは換金のために狩猟をおこなうことを求めている。現在、トロフィー・ハンティングの舞台とされた土地には、もともとは彼らの先祖が伝統的に利用してきた土地もあり、そのため彼らは、ライセンスも取得せず、税金も納めず、そして私有地であろうと侵入し、「密猟」をおこなう。ところが、密猟者に対しては厳しい処罰が与えられる。密猟に対する取り締まりが、警察や憲兵、そして観光事業者が雇用する密猟監視員によっておこなわれている。

 

カメルーンの場合、逮捕された密猟者は、最高1年の禁固刑と罰金が科せられる。こうした状況に対して、地域住民たちは「自分たちが食べる分だけでよいから狩猟させてほしい」「キャンプで働いている人は給料をもらえるが、雇われていない俺や他の人はどうやって(生活に必要な)石鹸を買えというのだ? 密猟をして肉を売って、金を作るしかないだろう」と語る。一方、観光事業者は「地域住民は、われわれに雇用されているのに、密猟をおこなっている」と憤っている。

 

 

おわりに

 

本稿では、カメルーンと南アフリカ共和国を事例に、トロフィー・ハンティングと地域社会の関係の実態について報告した。トロフィー・ハンティングは、地域社会に経済的便益をもたらし、それが地域住民を野生動物保全活動に参画させるインセンティブとなって、地域社会の経済的発展にもつながると評価されていた。

 

しかし、実態は、そのような理想像とは異なったものであった。税金の分配や、雇用機会の創出、公共施設の提供などの経済的便益はたしかに存在するが、一方で、地域住民の生業の基本である農耕、牧畜、そして狩猟は、トロフィー・ハンティングの妨げとなるために著しく制限されていた。

 

それでは、トロフィー・ハンティングと地域社会の関係において、なにが問題だったのか。それは、トロフィー・ハンティングが地域社会にもたらす影響が、経済的な観点のみによって評価されていたことである。観光事業者が語った言葉には、トロフィー・ハンティングが地域住民の生業に対して悪影響を及ぼすにもかかわらず、経済的便益を盾に正当化しようとする意図が垣間見えた。それは、札束で地域住民の頬を叩いて、黙らせようとしているようでもあった。

 

経済的な観点からの評価が重視され、それ以外の観点、たとえば、自然環境、地域住民の生業、伝統文化などが等閑視されてしまうことは、トロフィー・ハンティングに限ったことではなく、自然資源を利用したあらゆるかたちの開発の現場で起きている、あるいは内包している問題である。

 

「持続可能な開発」という国際的な提言が発表されてから、すでに30年が経過した。2015年9月には、国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、持続可能な開発目標(SDGs)が掲げられた。それを実現した社会を目指すためには、経済に限らず、自然、社会、文化などの多様な観点にもとづいた開発を目指さなければならないだろう。

 

参考文献

・Kreuter,U., M. Peel and E. Warner 2010 Wildlife Conservation and Community-Based Natural Resource Management in Southern Africa’s Private Nature Reserves. Society & Natural Resources 23(6): 507-524

・Lindsey,P.A., R.Alexander, L.G.Frank, A.Mathieson, S.S.Romanch, 2006, “Potential of trophy hunting to create incentives for wildlife conservation in Africa where alternative wildlife-based land uses may not be viable”. Animal Conservation Vol.9 :283-291.

・Mayaka,T,B. Wildlife Co-Management in the Benoue National Park-Conplex, Cameroon: A Bumpy Road to Institutional Development. World Development Vol.30, No.11, pp.2001-2016. Elsevier Science Ltd. Great Britain.

・Mbaiwa, J. E. 2017 Effects of the safari hunting tourism ban on rural livelihoods and wildlife conservation in Northern Botswana. South African Geographical Journal 99: 1-21.

・Roulet,P.A., 2004, Chasse Sportive et Gestion Communautaire de la Faune Sauvage en Afrique Central. Game and Willife Science,Vol.21(4) :615-632.

 

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