ロシア外交のひも解き方――プーチンの「脱欧入亜」政策を論じる

日ロ関係の重要性

 

――次に、日本に目を転じて、日ロ関係が冷戦後どのように展開してきたのか、またそれがアジアの国際政治の文脈の中でどのような意味合いを持つのかについて、教えてください。

 

第二次世界大戦が終わったとき、その処理というのは冷戦という形をとったわけですが、この冷戦の開始が持つ意味合いとは、ヨーロッパではドイツが力を失ってソ連が閉めだされ、アジアでは日本が力を失ってソ連が閉めだされる、ということでした。

 

しかし、冷戦が終結すると今度は逆に、ドイツや日本が再び力を蓄え、ロシアが再び西側に受け入れられる、という現象が起こりました。これがグローバル化とともに進行したわけです。

 

先ほど、クリントン政権の対ロシア外交が、国民の冷戦終結観や移民ロビーなどのアメリカ国内の情勢によって決められる部分が大きいというお話をしましたが、これは実は当時の日本にとって悪い話ではありませんでした。

 

むしろクリントン政権の容認のもと、当時の橋本政権は積極的にこの状況を利用しようとしました。その結果が1997年以降の日ロの平和条約交渉であり、これが98年の川奈会談で一度ピークを迎えることになるのです。

 

余談ですが、このとき今回暗殺されたネムツォフは、来日してひとつの大きな役割を果たしました。クリントンがこれを認めたというのは、ヨーロッパではロシアに対して少し厳しい態度で臨む代わりに、アジアの方には「窓」を開けてやる、という思惑があったということです。

 

その流れは現在も一応続いていると考えることもできて、つまり、冷戦後それまで疎外されていたロシアを再び受け入れていく、そのプロセスと、日本が力を増していくプロセスは、実は相互に関係していたわけです。

 

さて、これまでアメリカとロシアと日本の関わり、という論じ方をしてきましたが、一方でアジアにはもう一つの大国、すなわち中国があります。

 

中国に関しては、鄧小平の時代までは一応「韜光養晦」というような、アメリカを始めとする西側の国々と事を荒立てずに、そのルールにのっとって付き合っていく、という低姿勢があったわけですが、しかし徐々に学界や軍などで、そうではなく、中国の独自のやり方を主張したり、現状に対する不満を表明したりするようになってきたという状況があります。

 

これをアメリカもロシアも認識していて、その意味で、中国に対するある程度のバランシングというものが必要ではないか、という考えを共有していると考えられます。

 

中ロ関係は親密なようですが、ロシアにしても、中国の力が圧倒的に大きくなりすぎてしまうと、単独で対処するのは難しくなります。ロシアにとって中国という存在は、何にも代えがたい経済的魅力であると同時に、安全保障上の大きな脅威なのです。

 

ここに日本も含めた協力の余地があるとも言えます。日本との関係で言えば、ロシアの発展に日本が協力する、その代わりにロシアから資源を輸入する、そういった関係があり得ると思います。

 

近年ロシアは外交的にも、中韓関係が蜜月期にあるのを快く思わない北朝鮮を利用して、仲介の労をとって南北会談を働きかけたり、拉致問題の話し合いを仲介したりするといった独自の役割を果たすようになっています。

 

こういう状況の中で、アメリカの一部の人びとが考えるように、ロシアに対してあまりに強い態度をとって追い込んでしまうと、今度は中国との協調により重点を移し、結局アメリカのためにもならない、ということになる可能性があると私は思います。

 

 

今後どうなる?日ロ関係

 

――最後に、現在の日ロ関係は制裁等もあり、必ずしも思うように進んでいない印象を受けますが、近い将来これは変わっていくと考えてよいのでしょうか。

 

昨年延期されたプーチン大統領の訪日が今年行われるとすると、日ロ関係はそれを契機に大きく進展する可能性があります。また、2年後にはプーチンが大統領選挙を迎えますので、それに向けてもエネルギー面での協力も進むかと思います。また、そもそも日本が現在行っている対ロ制裁は中堅幹部に対するものが多く、そこまで実効的なものではありません。

 

現在日本は安倍政権でロシアはプーチン政権ですが、外交というのは一種の化学反応があるようで、安部首相とプーチン大統領は、例えばオバマ大統領とプーチン大統領の関係に比べても、保守同士かつ双方が安定政権であるということもあり、波長が合う部分が大きいように思われます。

 

また安倍晋三首相の父親である安倍晋太郎は、ゴルバチョフ来日を実現させた人物であり、祖父にあたる岸信介は、1956年の日ソ共同宣言を締結した鳩山一郎政権において、自民党幹事長を務めていました。ロシアからすれば、安倍ファミリーは、鳩山ファミリーとならんで、非常に大きな対日アクセス・ポイントなのです。両国で現在の政権が続いているこの期間に、日ロ関係が強化されることは大いに考えられます。

 

 

 

 

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