LGBTと「社会的養護」――家庭を必要としている子どもたちのために

▶シノドスの電子メールマガジン「αシノドス」

https://synodos.jp/a-synodos

▶真の教養を身に着ける「シノドス・サークル」

https://synodos.jp/article/20937

日本の社会的養護

 

「社会的養護」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

 

社会的養護とは「家庭において適切な養育を受けることができない児童を、社会が公的な責任の下で養育する仕組み(広義には、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を含む)」を指す。平たくいえば、育てる保護者のいない子どもたちを社会でどう育てていくか、という話である。

 

現在、日本の社会的養護の現状は批判にさらされている。里親家庭に委託される児童は要保護児童全体の12%(2011年度3月末現在)にすぎず、残りの児童は乳児院・児童養護施設等で養育されている。アメリカ・イギリスなどの欧米各国では、70%~80%の児童が里親家庭で育っているのに対し、12%は極端に低い数字である。欧米では「子どもは家庭で育つべき」という概念が当たり前になっており、国連から日本政府に対して、このような保護者のいない子どもたちには里親家庭などの家庭的な環境で子どもへのケアを提供するよう勧告が出されている。

 

そのような状況を受け、厚生労働省は「家庭的養護の推進」という目標の下、里親家庭の委託率を上げるためにさまざまな施策を進めようとしている。少しでも多くの里親家庭を増やし、社会的養護における施設偏重の現状を里親家庭などの家庭的養護中心のものへ転換していくことは、我が国の喫緊の課題であるといえよう。

 

 

厚生労働省HP掲載「社会的養護の現状について」より

厚生労働省HP掲載「社会的養護の現状について」より

 

 

「里親の人材」としてのLGBT

 

昨年、私は友人から、上記のようなこの国の社会的養護の実態を聞いた。日本で里親制度が普及してこなかったのは、日本の文化が血縁を重んじる傾向にあること、里親自身が里子の養育について語ってこなかったこと、行政による里親制度のPR不足など、さまざまな要因があるらしい。そのとき、私の頭の中に思い浮かんだのは、LGBT(*1)のカップル達の存在であった。

 

(*1)LGBT・・・女性同性愛者(レズビアン)、男性同性愛者(ゲイ)、両性愛者(バイセクシュアル)、性別越境者(トランスジェンダー、性同一性障がいの方も含む)の方々をまとめて指す言葉。

 

LGBTカップル間では、生物学的に二人の間で子どもを授かる方法がない場合が多い。その場合、あきらめるか、生殖医療技術によって子どもを授かるか、の主に二者選択の中で決断をするのが現状だ(里親・養親として子育てをしている人は皆無ではないがわずかである)。生殖医療技術は、費用面、倫理面などさまざまな理由で簡単には踏み切れない高いハードルがあり、自分の人生において「子育て」という選択肢をまったくないものとして生きている(もしくは自明なものとしてそう思い込んでいる)カップルも少なくない。

 

そんな彼らに、生殖医療による子育て以外にも、社会的養護の観点から子育てに参加することもできる、という事を伝えていけば、「それならば育ててみたい」と考えるLGBTカップルは増えるのではないか。そしてその彼らは、この国の社会的養護における家庭的養護の推進を支える人材として社会的に位置付けることができるのではないか、と考えたのである。

 

幸運にも、社会的養護に関わる勉強会を開催している方がこのテーマに関心を寄せてくれた結果、昨年秋、「LGBTと里親制度」と題した勉強会を行うことができた。そこに参加いただいたアメリカのソーシャルワーカーの方からは、アメリカではLGBTが里親制度の人的資源として広く認識され、すでに多くのLGBTが里親として子どもの養育に関わっており、LGBT専門の里親・養親支援の団体などが存在することを教えてくれた。

 

また、里親の当事者からは、里親もLGBTと同じくマイノリティであるということを聞いた。周りからの無理解・偏見などLGBT当事者の悩みとも共通する部分が多くあった。ある里親さんからは「悩みながら生きてきたLGBT当事者は里親としてむしろ子どもに寄り添える資質があるともいえる」との言葉をいただき、LGBT里親の可能性について考えていくべきだと勧められた。日本でも、この「LGBTと里親制度」、さらに広げて「LGBTと社会的養護」について話し合う場、機会がもっと設けられるべきだと、この勉強会を開催して強く認識したのであった。

 

 

 

1 2 3
シノドス国際社会動向研究所

vol.268 

・植原亮「エンハンスメント論争の行きつくところ――BMIから徳へ?それとも?」

・出井康博「留学生という名の単純労働者」

・堀内進之介「学び直しの5冊〈現代社会〉」
・有馬斉「患者が望まない延命治療を行うことは正当化できないパターナリズムか――『死ぬ権利はあるか』出版に寄せて」
・穂鷹知美「移動の自由がもたらす不自由――東ヨーロッパを揺り動かす移住・移民問題」
・多賀太「男性の「ケア」参加はジェンダー平等実現の決め手となるか」
・吉永明弘「ローカルな視点からの環境論」