LGBT就活――20人に1人の就活生の現状

2014年3月卒の大卒求人数は42万人を超えるといわれています。人口の5.2%といわれるLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなど)の新卒就活生は2万人以上であると想定できます。

 

しかし僕自身、LGBT就活生のひとりとして就職活動をしていたとき、面接を受ける度に「LGBTの就活生に会うのは初めて」と人事の方から言われることは少なくありませんでした。また、「うちの企業にLGBTはいません」と言いきられることも多々。

 

でも、本当にそうなのでしょうか?

 

セクシュアリティは目には見えません。そのため、気が付かずにLGBTの就活生と接していることが想定できます。

 

LGBTの元就活生たちに、就活体験記を聞いてみました。

 

 

「カミングアウトして」の就活体験記

 

《中島潤》

 

要介護高齢者を対象にしたサービスを提供するベンチャー企業に、新卒社員として入社して2年目。トランスジェンダーであることを就活時からカミングアウトし、現在戸籍は女性のまま男性社員として働いている。

 

 

■大人になることも、はたらくこともできないと思った幼少期

 

初めて「自分は、はたらけないんだろうな」と思ったのは、小学校の職業体験。体験学習の中で見えてきた「はたらく人」は男性か女性だけ。その人たちがはたらく社会っていうのも規範的な家族を前提とした社会なのだな、と感じたのを覚えています。

 

例えば、電車の運転手を職業体験したとして、「でもこの男性用と女性用に分けられた制服のどちらかを着ないといけないんだったら、自分はなれないな」と。その時点で選択肢がひとつなくなるように感じました。

 

その後も、生き方の多様性やセクシュアリティの多様性について学校でも教えられないまま、人生設計や進路選択を行う時期になりました。多様な選択肢があると知らないから、全ての選択肢が自分にあてはまらないものに思えてしまい、進路を考えようという気持ちにもなかなかなれませんでした。「自分は大学に行ったとして、それでどうなるんだ」と。一般的な、『企業就職』という道はないと漠然と思っていましたし、そもそも大人になれるというビジョンを持つこともできなかったからです。

 

だから、就活以前の段階で躓いていたんだと思います。身近にLGBTの等身大のロールモデルの不在、教育を受ける中で自分の存在が認識されている、あるいは社会の中に自身が含まれているという実感が持てなかったから、自分が大人になれるビジョンが持てませんでした。このような状況の中で、僕と同様にはたらけないと思ってしまう、という状況は、多くのLGBTにあてはまることだと思います。

 

 

■カミングアウトしての就活を決意

 

大学時代にセクシュアリティを含め、自分を受け入れてくれる仲間ができたことや、はたらくLGBTの大人と出会いロールモデルができたことで、就活に踏み出すことができました。でもセクシュアリティを伝えて就活するか否か、とても迷いました。

 

最終的にセクシュアリティを伝え就活することにした理由は、3つあります。1つ目に、セクシュアリティを理由に落とすような企業は、きっとその他の価値観も合わないだろうと思ったから。明かさずに就活して入っても、後々居心地が悪くなるかもしれない。2つ目に、面接で「何故それをしたいの」「その想いはどこからくるの」と問われた時、セクシュアリティを隠したまま語ることは困難だろうと感じたから。セクシュアリティは僕の大切な一部だし、それを通じて気づいた社会の在り方、歪みがたくさんある。そして3つ目に、僕がセクシュアリティを伝えた上で就職することで、後輩たちに「日本の企業や社会も捨てたもんじゃない!」って言いたいし、企業側にも「こんな人もいるんだ」ということを知って欲しかったからです。

 

 

■就活の入り口で見えた「男女」の壁

 

就活で感じた最初の「壁」は、リクルートスーツと「あるべき就活生像」についてでした。男女で服装や髪型、マナーまでも分かれており、就活生は一般社会より強いジェンダー規範でくくられているように感じました。企業によっては、男女で説明会日程を分けていたり、男女での実質の仕事内容や昇進の仕方が違ったり。エントリーシートの性別欄も、特にトランスジェンダーにとっては困難になりやすいです。

 

就活の入り口で見える景色があまりにも男女でわかれており、それに当てはまらない人を排除するからこそ、特にトランスジェンダーの就活生は就活の入り口にも立てない現状があります。

 

「はたらきたい業界(や企業)」と「ありのままではたらける業界(企業)」が一致しない可能性があり、だからこそLGBTの就活生にとっては選択肢が狭まるように感じられるとともに、自身の望む仕事ができないと感じることも少なくないのだろうなと。自分もひとりで就活していたらきっとそう思っていたと思う。就活を始める段階で相談できる友人や、明らかにセクシュアリティを理由に落とされた面接のときに愚痴を聞いて「そんな会社には行かなくていい」と僕の代わりに怒ってくれる人がいたんです。それはすごく自分を責めないことや、諦めないことにつながりました。

 

 

■就活を終え、思うこと

 

実際に就活をやってみると、予想より好意的な反応が多かったです。最終的に内定を受諾した企業には、一次面接で履歴書を提出する際に説明したのですが、「では、性別欄は空白のままで」と言って履歴書を受け取ってもらい、その後の面接でも特別扱いはされませんでした。

 

就活を経て、自身の意識の中でセクシュアリティの占める割合が下がった様に思います。就活を始めるまでは「就活におけるハードルはセクシュアリティだけ。それさえ超えれば就活は大丈夫だろう」と思っていました。でも、社会に出るって男性としてはたらくか女性としてはたらくかとかそんな単純なことじゃなく、自分と社会の関わり方を考えないといけないんです。就活を通じて、セクシュアリティは自分の大事な部分ではあるけれど、それほど大きくないんだな、と思えました。

 

LGBTの就活生には、「自分のことを大事にしよう」と思ってほしい。例えば僕は、法律違反をしている会社では、はたらきたくないというのと同様に、女性として扱われないって言うのが自分の尊厳を守る上で大事だった。環境破壊は嫌だというのと同じ視点で女性としてはたらくのは嫌だった。だからこそ、LGBTの就活生には特に自分の大事にしたいものが何かを考え、それを大事にしてくれる企業を見つけるための就活をしてほしいと思います。

 

 

■企業やキャリアセンターへのお願い

 

「多様性を尊重する」という価値観がある企業には、是非明示して頂きたいです。

 

会社説明会で質問したり、エントリーしてみるなど自分からアクセスしないと、LGBTに対する差別の有無がわからない現状があります。自分が勇気を持って問いかけないとわからないから、傷つくのが怖いと思ったらアプローチできないし、折角welcomeだったとしても上手くマッチングできない可能性もあります。「性的指向によって差別しない」ということを会社規定で明記している企業はまだ日本には少ないですが、そのようなメッセージを出してくださることで、LGBTの就活生はアプライしやすくなります。

 

また、僕は就活時キャリアセンターには相談できませんでした。キャリセンターに寄せられている卒業生の声の冊子があたりまえに男女別に記載されていたことが一因です。キャリアセンターも是非LGBTの就活生がいることを念頭に置いた発信をしていただけたら、LGBT就活生も相談に行きやすいのではないかと思います。

 

 

《筆者からの補足》

 

アメリカではHuman Rights CampaignがLGBTのはたらきやすさをランキング形式で毎年発表しています。http://www.hrc.org/campaigns/corporate-equality-index

 

これは、LGBTの就活生のみにとどまらず、LGBTでない人にとっても、企業の人権意識を計る上でとても重要な指標であると言われています。

 

また、日本でも東洋経済の2014年度版のCSR調査の中に、LGBTに対する項目が入りました。http://www.toyokeizai.net/csr/pdf/syukei/CSR_syukei2014.pdf

 

 

 

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無題

 

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