2014.11.26
LGBTと障害者就労――生きやすい場を求め、変えていく
働きたい!
同性愛者や性別に違和感がある人を対象とした電話相談では、仕事の悩みが尽きない。職場での孤立、結婚の圧力、見た目と法律上の性別が違うことなど、就職活動や仕事の継続には壁がある。最近は、就職活動や在職中に性別を変わるためのサポートを行うグループも出てきている。そんな中、LGBT[*1]の障害者はどうしているのか、あまり語られる事がない。そこで、本稿ではLGBTで障害を持っている人たちの雇用について考えてみたいと思う。
私は、中学時代から同性と付き合い、その後も人生の大半を女性と暮らしてきたバイセクシュアルでもある。現在は、ライフワークとしてLGBTや多様な性を生きる人々の自助・支援センターの運営に携わっている。同時に精神科診療所のソーシャルワーカーでもある。診療所では、就職活動に向けた個別対応(就労支援)や休職中の方が会社に戻るための援助(Return to Work「リワーク」)もさせてもらっている。そのため、今回は支援者として関わりの深い精神障がいや発達障がいに関する障害者雇用とLGBTについて主に述べいく。
ちなみに、私はみんなが会社で働かないといけないとは思っていない。しかし「働きたい」という気持ちをの人のために、できることがあるなら提供したいと思う。
[*1] LGBTについて詳しく知りたい方はこちらもご参考に セクシュアル・マイノリティ/LGBT基礎知識編 https://synodos.jp/faq/346
就職継続率UP
働くための手段として、精神科に通う人や障害を持つ人が使える就職支援専門の機関を紹介することがある。一人で仕事を探すより、採用される可能性が高くなるし、なにより、仕事を継続できると実感している。
精神科の診療所に通う多くの人たちは、就職に受からないわけではないのだが、病気の症状や障害の特徴でなかなか仕事を続けることが難しい状況がある。2008年に障害者職業総合センター研究部門が行った調査[*2]では、一般求人[*3]で会社に障害を伝えず、また会社と本人の架け橋になる支援(定着支援)がない場合、就職一年後にその仕事を継続している人は23%となっている。それに対して、障害者向けに出ている求人で入職し、障害を開示、さらに定着支援を受けた場合、70%の人が就労を継続している。この差は歴然だ。
[*2] 障害者職業総合センター研究部門,精神障害者の雇用促進のための就業状況等に関する調査研究(一)〜ハローワークにおける精神障害者の職業紹介等に係る実態調査から〜,働く広場,2010年12月3日。本調査はハローワーク経由のみであり、それ以外の就職については不明であることにも留意したい。また、ハローワークにはのらない産業があり、多くの人が従事している。本来はそれらも包括して、障害者就労について記述すべきと思う。今後の私の課題としたい。
[*3] 障害者用にだされた求人「障害者求人」と区別して、それ以外を一般求人と呼ぶ。
働きにくさを感じている人に支援機関があることを知ってもらえれば、「働けないかも」から「働けるかも」に思いが変わっていくのではないか。実際に診療所で行っているセミナーでは、そういった思いがよくきかれる。
LGBTの使いやすい施設とは
就労支援の施設がLGBTにとっても使いやすくなるよう施設側にアプローチすることを考えた。LGBTにとっては、福祉や医療機関は使いにくい。幼い頃からなよなよしている人をいじめのターゲットにしているのをみたり[*4]、異性愛者しかいない前提で行われる会話の中でそだってきたLGBTは、自分はいてはいけない存在だと思う人が多い。そもそも制度自体がLGBTを前提としていないので使いづらい。
[*4] 2013年末に実施された「LGBTの学校生活実態調査」によればLGBTの7割がいじめを経験し、その影響によって3割が自殺を考えた。またLGBTをネタとした冗談やからかいを84%が見聞きしている。http://endomameta.com/schoolreport.pdf
いくつかの施設に利用者の中にLGBTの人がいたかを聞いてみたところ、「会ったことがない」と言われた。LGBTは人口の5.2%と言われているので、出会ったことがないのではなく、出会っていても気づかないのだろう。その中で、利用者にLGBTの人がいたという就労移行支援事業所[*5]「ウィングル」のスタッフに話を伺った。利用者本人にもインタビュー形式でご協力いただいて、どのような施設であれば利用しやすいのかを考えた。
[*5] 就労に必要な知識や能力向上のために必要な訓練を行う福祉施設。職場体験や求職活動の支援、職場開拓、就職後の職場定着支援を行う。
■ケース1
20代。出生時は男性で、自分でも幼少期から男っぽくないと思っていた。性同一性障害の専門外来に通院中。女性として働いていた時期もあったが、現在はなよなよした男性でいいかもと思っている。福祉関係の仕事についている家族からウィングルを教えてもらい、利用時の初回面談で精神障害と性同一性障害ついて話した。他の利用者にも全体に向けてのスピーチの時間にカムアウトしたが良くも悪くも特に反応はなかった。父は、性同一性障害に理解はなく、波風立てたくなかったのでウィングルのスタッフと家族が会うことはなかった。
私は診療所でウィングルを利用させてもらっている。本人に必要なサポートを様々してくれるだけでなく、家族に対するアプローチも行うのだが、この時は実施しなかった。家族関係が、精神状態に影響を及ぼしていることはスタッフもわかっていたが、本人が希望しなかったためだ。そして、本人はクローズド[*6]で就職を決めた。
[*6] 障害を開示せずに就職すること
■ケース2
50代、バイセクシュアル男性。HIVと精神症状あり。最初はウィングルの職員としての面接を受けるつもりで問い合わせた。障害者が企業に就職するための支援機関があることはそれまで知らず、もっと早く知りたかったと述べる。ウィングルを経て、就職。面接のときには、障害とセクシュアリティの話をした。セクシュアリティをオープンにすることには、メリット・デメリットどちらも感じていない。職場の親しい人には話の流れで、カムアウトした。就職後、一部の人間関係にまきこまれ退職している。
二人に共通するのは、初回で自分のセクシュアリティについて話していること、セクシュアリティの話はしたが、特にスタッフに対してセクシュアリティに関して特別な対応を求めていないことである。
虹色ダイバーシティのデータでLGBTの転職率が出されている(2013)。一般の51.8%に比べて、LGBTは60%で、特にMtFは68.3%が転職を経験している。これは、健常者と障害者をわけてデータを集めているわけではないが、障害の部分だけではなく、セクシュアリティに関してもサポートが必要なことがわかる。
これまで、LGBTへの理解が広がることで仕事の継続が高まるのではないか。障害者雇用も同様で、施 設職員がLGBTが何を求めているのか知ることで就職継続性が高まるかもしれないと私は考えていた。けれど、この二人は特別な対 応を求めていなかった。
セクシュアリティについて特に不自由していなかったとか、どのような対応をしてほしいのかが自分自身でもわからないということや、求めてはいけないという抑止が自動的に働いていること、セクシャリティの課題よりもこの時点では障害の課題のほうが大きいことなど、理由はさまざま考えられる。ただこれらは推測でしかなく、実際はどのような要因であるかはわからなかった。
たった二例のため、一般化はできないが、LGBTと出会ったことがないという施設が多い中、同施設でなぜ二人もカムアウトしていたのだろうか。そしてなぜ特別な対応を求めていないのか。そこで、もう一つの共通点である「初回でセクシュアリティについて話した」ということに着目してみた。
ウィングルなんばのサービス管理者大久保氏は、同事業のミッションを「基本的には“障がいは個人ではなく社会の側にある”と考え、社会を変えていくこと、……変えていくといいますか、“多様な個性が輝ける社会をデザインする”ことがミッション」だという。確かに、ケース2の方は「この施設には人の話をきいて共感する力、障害者もそうでない人も人として見る姿勢があった」と述べていた。多様な人々がいて、多様な個性が社会をつくるという観点と実現しようとする行動力がある場所、人、がLGBTにとってもいやすい場所なのかもしれない。だからこそ、二人はウィングルでカムアウトをしていたのではないか。しかも、わざわざ特別な対応を求める必要もなかったのではないだろうか。
「障害者の雇用の促進等に関する法律」には、“合理的配慮の提供義務”が掲げられている。これは車いすを利用する人にあわせて机などの高さを調整することや、障害の特性に応じた対応をして職場環境を整えることを義務づけるものだ。こうした個々にあわせた配慮を障害者に限らず、健常者にもすることで、誰もがより働きやすい状態になるのではないだろうか。
障害者就労で、支援施設のサポートが入ると、本人や支援者が会社とさまざま話し合いをする。よくわからない人を雇ってうまくいかずにやめられるより、仕事を継続してもらったほうが、利益があるわけだ。その上、障害者の環境整備を通して他の職員にもいい影響を及ぼすこともある。「障害者」は特性に応じた仕事であったり、環境が整備されていることで能力を発揮できる。「障害者だから簡単な仕事しかできない」と、健常者と同様の仕事ぶりを求めるのは不合理なように思う。健常者も障害者もそれぞれの個性が活かされ、自分を会社の一員と実感できる職場は働きやすいはずだ。
LGBTは頑張って認められなければならないのか
LGBTであることをカムアウトするのは、会社に貢献してからがいい、と言われることがある。それは「頑張らなければLGBTは認められない」というサインだ。シスジェンダー[*7]の異性愛者より頑張ることで、ようやくそこに存在することを許される。「頑張っているから私のセクシュアリティを認めてください」ということだ。そうした関係は、同等なものと言えるのだろうか。
[*7] 生まれたときに決められた性別と自己が認識している性別にずれがない状態のこと
私は、頑張っている人を否定したいのではない。私は職場でカミングアウトしている。「カミングアウトしているんだから頑張らなくっちゃ!」と思っていたし、いまもその気持ちは完全にはぬぐえない。「シスジェンダーの異性愛者より頑張らないと……」「障害者として頑張るので認めてください」本当に、それでいいのだろうか。“障害者”だから“LGBT”だから、“何々”だから……頑張ることが……?
いずれ誰もが、不当に頑張らなくていい日が来るように、多様な人々が生きやすい職場をつくっていきたい。シスジェンダーの異性愛者ももちろん多様なわけだ。みんな同じではなく、みんな違う。「障害者」や「LGBT」といった属性にある社会的課題による影響や格差を知り、変えていき、生きやすい場を作っていきたい。そのために、さまざまな場所にアプローチしていきたい。企業や福祉施設もその一つだ。と、いうことは頑張るわけですが、まあ、すでに、いろんな人が頑張っている。一人ではない。ぼちぼちいこう。
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プロフィール
桂木祥子
1976年生まれ。2003年LGBTや多様な性を生きる人々のリソースセンターQWRCを大阪にて数人で設立。現在、同センター理事、相談事業にてコーディネーターを務める。LGBTの個別支援にちからをいれながら、行政機関や、福祉、医療関係でセクシュアリティに関する研修を行っている。精神科のソーシャルワーカーでもあり、うつをはじめとした精神疾患など精神の分野にもセクシュアリティの視点をいれようと奮闘中。LGBTのDVに関する調査を実施予定。