LGBTと障害者就労――生きやすい場を求め、変えていく

働きたい!

 

同性愛者や性別に違和感がある人を対象とした電話相談では、仕事の悩みが尽きない。職場での孤立、結婚の圧力、見た目と法律上の性別が違うことなど、就職活動や仕事の継続には壁がある。最近は、就職活動や在職中に性別を変わるためのサポートを行うグループも出てきている。そんな中、LGBT[*1]の障害者はどうしているのか、あまり語られる事がない。そこで、本稿ではLGBTで障害を持っている人たちの雇用について考えてみたいと思う。

 

私は、中学時代から同性と付き合い、その後も人生の大半を女性と暮らしてきたバイセクシュアルでもある。現在は、ライフワークとしてLGBTや多様な性を生きる人々の自助・支援センターの運営に携わっている。同時に精神科診療所のソーシャルワーカーでもある。診療所では、就職活動に向けた個別対応(就労支援)や休職中の方が会社に戻るための援助(Return to Work「リワーク」)もさせてもらっている。そのため、今回は支援者として関わりの深い精神障がいや発達障がいに関する障害者雇用とLGBTについて主に述べいく。

 

ちなみに、私はみんなが会社で働かないといけないとは思っていない。しかし「働きたい」という気持ちをの人のために、できることがあるなら提供したいと思う。

 

[*1] LGBTについて詳しく知りたい方はこちらもご参考に セクシュアル・マイノリティ/LGBT基礎知識編 https://synodos.jp/faq/346

 

 

就職継続率UP

 

働くための手段として、精神科に通う人や障害を持つ人が使える就職支援専門の機関を紹介することがある。一人で仕事を探すより、採用される可能性が高くなるし、なにより、仕事を継続できると実感している。

 

 

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精神科の診療所に通う多くの人たちは、就職に受からないわけではないのだが、病気の症状や障害の特徴でなかなか仕事を続けることが難しい状況がある。2008年に障害者職業総合センター研究部門が行った調査[*2]では、一般求人[*3]で会社に障害を伝えず、また会社と本人の架け橋になる支援(定着支援)がない場合、就職一年後にその仕事を継続している人は23%となっている。それに対して、障害者向けに出ている求人で入職し、障害を開示、さらに定着支援を受けた場合、70%の人が就労を継続している。この差は歴然だ。

 

[*2] 障害者職業総合センター研究部門,精神障害者の雇用促進のための就業状況等に関する調査研究(一)〜ハローワークにおける精神障害者の職業紹介等に係る実態調査から〜,働く広場,2010年12月3日。本調査はハローワーク経由のみであり、それ以外の就職については不明であることにも留意したい。また、ハローワークにはのらない産業があり、多くの人が従事している。本来はそれらも包括して、障害者就労について記述すべきと思う。今後の私の課題としたい。

 

[*3] 障害者用にだされた求人「障害者求人」と区別して、それ以外を一般求人と呼ぶ。

 

働きにくさを感じている人に支援機関があることを知ってもらえれば、「働けないかも」から「働けるかも」に思いが変わっていくのではないか。実際に診療所で行っているセミナーでは、そういった思いがよくきかれる。

 

 

LGBTの使いやすい施設とは

 

就労支援の施設がLGBTにとっても使いやすくなるよう施設側にアプローチすることを考えた。LGBTにとっては、福祉や医療機関は使いにくい。幼い頃からなよなよしている人をいじめのターゲットにしているのをみたり[*4]、異性愛者しかいない前提で行われる会話の中でそだってきたLGBTは、自分はいてはいけない存在だと思う人が多い。そもそも制度自体がLGBTを前提としていないので使いづらい。

 

[*4] 2013年末に実施された「LGBTの学校生活実態調査」によればLGBTの7割がいじめを経験し、その影響によって3割が自殺を考えた。またLGBTをネタとした冗談やからかいを84%が見聞きしている。http://endomameta.com/schoolreport.pdf

 

 

いくつかの施設に利用者の中にLGBTの人がいたかを聞いてみたところ、「会ったことがない」と言われた。LGBTは人口の5.2%と言われているので、出会ったことがないのではなく、出会っていても気づかないのだろう。その中で、利用者にLGBTの人がいたという就労移行支援事業所[*5]「ウィングル」のスタッフに話を伺った。利用者本人にもインタビュー形式でご協力いただいて、どのような施設であれば利用しやすいのかを考えた。

 

[*5] 就労に必要な知識や能力向上のために必要な訓練を行う福祉施設。職場体験や求職活動の支援、職場開拓、就職後の職場定着支援を行う。

 

■ケース1

 

20代。出生時は男性で、自分でも幼少期から男っぽくないと思っていた。性同一性障害の専門外来に通院中。女性として働いていた時期もあったが、現在はなよなよした男性でいいかもと思っている。福祉関係の仕事についている家族からウィングルを教えてもらい、利用時の初回面談で精神障害と性同一性障害ついて話した。他の利用者にも全体に向けてのスピーチの時間にカムアウトしたが良くも悪くも特に反応はなかった。父は、性同一性障害に理解はなく、波風立てたくなかったのでウィングルのスタッフと家族が会うことはなかった。

 

私は診療所でウィングルを利用させてもらっている。本人に必要なサポートを様々してくれるだけでなく、家族に対するアプローチも行うのだが、この時は実施しなかった。家族関係が、精神状態に影響を及ぼしていることはスタッフもわかっていたが、本人が希望しなかったためだ。そして、本人はクローズド[*6]で就職を決めた。【次ページにつづく】

 

[*6] 障害を開示せずに就職すること

 

 

 

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