2014.08.23

大人には話しにくい――LGBTの子どもの学校生活といじめ

遠藤まめた 「やっぱ愛ダホ!idaho-net」代表

社会 #LGBT#いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン#性同一性障害

先日、文部科学省は性同一性障害の子どもたちに関する全国調査を公開しました[*1]。

全国の小中高を対象としたこの調査によれば、学校側に悩みを相談した子どもは分かっているだけで606人。その約6割が、希望の性での制服着用やトイレ使用などの対応を受けているとのことでした。

氷山の一角なのだと思います。ニュースを聞いて、自分が高校生の頃だったらと思いました。自分が高校生の頃だったら、今回の調査に先生はきちんと「うちの学校にもいる」と答えたのだろうか、と。

私も性同一性障害の診断を持っている一人として、子ども時代には制服やトイレで苦労した経験があります。高校の頃、毎日セーラー服で通学することが耐えきれなくなって先生にも相談しました。「それは今テレビとかでやっているからねぇ」とお茶を濁した先生は、言外に「大人になれば変わるよ。思春期の一過性のものでしょ」と言いたいようでした。このように「なかったことにしてしまう」先生は今もたくさんいることでしょう。性同一性障害や、それに近い困りごとを持つ子どもは全国に数十倍存在するかもしれません。しかし、今回606名もの子どもの声を大人がキャッチできたということを評価したいと思います。

ところで、今回の文部科学省の調査は性同一性障害にのみ特化したものですが、子ども時代に学校で孤立感や困りごとを抱えやすいのは、実はLGBT[*2]などのセクシュアル・マイノリティ全般に共通して言えることです。

私が共同代表を務める「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」では、今年5月にLGBT全般を対象とした学校生活の実態調査を公開しました。これまで性同一性障害や同性愛・両性愛男性に対する調査は存在したものの、LGBT全体で学校生活に関して数百人規模の調査が行なわれたのは国内初です。本稿では、当団体の調査結果をもとにLGBTの子どもたちの現状について一緒に考えていきましょう。

[*1] 性同一性障害:学校に相談606人 文科省初調査(毎日新聞 2014年06月13日) http://mainichi.jp/select/news/20140614k0000m040056000c.html

[*2] LGBTについて詳しく知りたい方はこちらもご参考に セクシュアル・マイノリティ/LGBT基礎知識編 https://synodos.jp/faq/346

LGBTの子どもたち全体に視野を広げると……

2013年末に実施された「LGBTの学校生活実態調査」はインターネットを通じて回答を呼びかけたアンケート調査で、

・LGBT当事者であること
・10歳以上35歳以下であること(2013年末時点)
・関東地方で小学校~高校生の間を過ごしたこと

の3条件に該当する609名から回答を得ました。

調査の報告書全文はこちら(http://endomameta.com/schoolreport.pdf)から読めます。関東に限定したのは、この調査を東京都自殺対策緊急強化補助事業の枠組みの中で実施したためです。本当は全国規模でやりたかったのですが、規模の拡大は今後の宿題という形になりました。

結果からは、主に次のことがわかりました。

(1) 自分自身がLGBTかもしれないことを、小学校~思春期の頃に大半が自覚する。しかし、男子5割、女子3割は小中高にわたってだれにもそのことを話せなかった。

(2)カミングアウトの相手は大半が同級生で、教員や親などの大人を選ぶ割合は低い。

(3) 全体の7割がいじめを経験し、その影響によって3割が自殺を考えた。またLGBTをネタとした冗談やからかいを84%が見聞きした。

以下、ひとつずつ検証していきましょう。

子どもたちは「話しにくさ」を抱えている

(1) 自分自身がLGBTかもしれないことを、小学校~思春期の頃に大半が自覚する。しかし、男子5割、女子3割は小中高にわたってだれにもそのことを話せなかった。

「自分はなんだか周りの友達とは違うのかも」「同性が好きかもしれない」「異性に興味が持てない」「男子や女子に振り分けられるけど、なんか居心地がわるい」など、自分自身がLGBTかもしれないことに気がついた時期は、LGBの場合には小学校6年生~高校1年生のいわゆる思春期、性別違和のある「男子」(MTF,MTXなど。本稿での「男子」「女子」の表記は、学校文化において「男子」「女子」として扱われているかどうか≒出生時の性別を基に統一します)では、小学生の時期が最多でした。

学校にいる時期から、なんとなく「周りと違うかも」と思ったり、あるいははっきりと「自分はゲイだ」「トランスジェンダーだ」などの自覚を持ったりする子どもが大半であることがここでは示されています。

しかし、そんな彼らに「小学生から高校生の間に、自分がLGBTであることをリアルで話した相手の人数」について質問したところ、「だれにも言えなかった」と回答したのは実に「男子」53%、「女子」31と、相当な割合に上ったのです。

graph2

誰かに話したという場合でも、最多は1~4人。話した人数が10人未満だったという回答者が全体の8割以上を占めます。LGBTであることを誰かに話さなかった理由は「理解されるか不安だった」が約6割。「話すといじめや差別を受けそうだった」も「男子」では約6割と高率でした。

LGBTの子どもたちにとって、自分の性について誰かに伝えること(カミングアウト)がいかに難しいことなのか、特に「男子」の場合には「女子」よりもいじめや差別への恐怖が強く、ひとりで抱え込みやすいことが推測されます。

「同年代のごく親しい友人」がキーパーソン

(2)カミングアウトの相手は大半が同級生で、教員や親などの大人を選ぶ割合は低い。

前述したように、大半のLGBTの子どもたちにとって「自分のこと」を周囲に話すのは、とても大変なことです。それでも「周囲のだれかに話した」という人たちは、どんな相手を選んでいるのでしょうか。調べたところ、下記のグラフのようになりました。

打ち明けた相手

「周囲のだれかに話した」子どもたちは約6~7割が同級生を選び、また同級生でなくとも部活や同じ学校の友人など、同世代の友人を選んでいました。学校の教師や両親など、いわゆる「大人」を選ぶ割合は2割程度。性別違和がある子どもの場合、服装や立ち振る舞い、性同一性障害の専門病院(いわゆるジェンダークリニック)を受診する際に親から保険証を借りる必要があることなどの側面から、比較的「大人」に話す率が上昇しますが、全体的に「大人」は選ばれにくいようです。

いじめ被害と「ホモネタ」という踏み絵

(3) 全体の7割がいじめを経験し、その影響によって3割が自殺を考えた。またLGBTをネタとした冗談やからかいを84%が見聞きした。

今回の調査では、LGBTの子どもがいじめ被害に頻繁に会っており、その被害内容も深刻であることが示唆されました。特に性別違和のある男子では、いじめが長期化しやすい上に、身体的な暴力(48%)、性的な暴力(服を脱がされる・恥ずかしいことを強制される)(23%)など、深刻な被害実態があることがわかりました。

 

graph

また、学校の友人や同級生がLGBTについての不快な冗談を言ったり、からかったりしたことがあったかどうか尋ねたところ、回答者全体の84%は何らかの形でこれらを見聞きした経験があったと回答しました。いわゆる「ホモネタ」は蔓延していることがわかります。このような場面でどのように対応したかを尋ねたところ、「やめてほしい」と言えたのはごく一部にすぎず、「何もしなかった」が7割強。「自分がいじめられないように一緒になって笑った」も、ゲイ・バイセクシュアル男子では約4割にのぼりました。これは、自分がLGBTでないことを証明するための「踏み絵」に近く、かなりキツい体験なのではないかと思われます。

おわりに

ここ数年、日本国内でLGBTに関する理解は少しずつ浸透してきたように思います。性同一性障害に関する文部科学省の取り組みも(本来であれば、もっともっと前から取り組んでいるべきだったとはいえ)今後につながる大きな一歩だと思われます。しかし、子どもたちの世界は思いのほか狭いもの。「自分の学校と家だけが世界だ」という子どもも少なくないのです。日本全国どこに住んでいても、安心して子ども時代を過ごせるような社会のためにできることはなんなのか、あなたも、ぜひ一緒に考えてみてください。

大人の世界にも「ホモネタ」やいじめはあります。あなたの周りにも、無理して笑っている顔がひとつやふたつ、あるかもしれませんよ。

●調査の報告書全文はこちら!

http://endomameta.com/schoolreport.pdf

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サムネイル「Heiwa elementary school 平和小学校 _15」ajari

https://flic.kr/p/6Wvbyd

プロフィール

遠藤まめた「やっぱ愛ダホ!idaho-net」代表

1987年生まれ、横浜育ち。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をもとに、10代後半よりLGBT(セクシュアル・マイノリティ)の若者支援をテーマに啓発活動を行っている。全国各地で「多様な性」に関するアクションや展開している「やっぱ愛ダホ!idaho-net」代表。著書に『先生と親のためのLGBTガイド もしあなたがカミングアウトされたなら』(合同出版)

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