2013.12.13

LGBTと「社会的養護」――家庭を必要としている子どもたちのために

藤めぐみ 一般社団法人レインボーフォスターケア代表理事

社会 #LGBT#いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン#里親制度#社会的養護#養子縁組制度#Rainbow Foster Care

日本の社会的養護

「社会的養護」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

社会的養護とは「家庭において適切な養育を受けることができない児童を、社会が公的な責任の下で養育する仕組み(広義には、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を含む)」を指す。平たくいえば、育てる保護者のいない子どもたちを社会でどう育てていくか、という話である。

現在、日本の社会的養護の現状は批判にさらされている。里親家庭に委託される児童は要保護児童全体の12%(2011年度3月末現在)にすぎず、残りの児童は乳児院・児童養護施設等で養育されている。アメリカ・イギリスなどの欧米各国では、70%~80%の児童が里親家庭で育っているのに対し、12%は極端に低い数字である。欧米では「子どもは家庭で育つべき」という概念が当たり前になっており、国連から日本政府に対して、このような保護者のいない子どもたちには里親家庭などの家庭的な環境で子どもへのケアを提供するよう勧告が出されている。

そのような状況を受け、厚生労働省は「家庭的養護の推進」という目標の下、里親家庭の委託率を上げるためにさまざまな施策を進めようとしている。少しでも多くの里親家庭を増やし、社会的養護における施設偏重の現状を里親家庭などの家庭的養護中心のものへ転換していくことは、我が国の喫緊の課題であるといえよう。

厚生労働省HP掲載「社会的養護の現状について」より
厚生労働省HP掲載「社会的養護の現状について」より

「里親の人材」としてのLGBT

昨年、私は友人から、上記のようなこの国の社会的養護の実態を聞いた。日本で里親制度が普及してこなかったのは、日本の文化が血縁を重んじる傾向にあること、里親自身が里子の養育について語ってこなかったこと、行政による里親制度のPR不足など、さまざまな要因があるらしい。そのとき、私の頭の中に思い浮かんだのは、LGBT(*1)のカップル達の存在であった。

(*1)LGBT・・・女性同性愛者(レズビアン)、男性同性愛者(ゲイ)、両性愛者(バイセクシュアル)、性別越境者(トランスジェンダー、性同一性障がいの方も含む)の方々をまとめて指す言葉。

LGBTカップル間では、生物学的に二人の間で子どもを授かる方法がない場合が多い。その場合、あきらめるか、生殖医療技術によって子どもを授かるか、の主に二者選択の中で決断をするのが現状だ(里親・養親として子育てをしている人は皆無ではないがわずかである)。生殖医療技術は、費用面、倫理面などさまざまな理由で簡単には踏み切れない高いハードルがあり、自分の人生において「子育て」という選択肢をまったくないものとして生きている(もしくは自明なものとしてそう思い込んでいる)カップルも少なくない。

そんな彼らに、生殖医療による子育て以外にも、社会的養護の観点から子育てに参加することもできる、という事を伝えていけば、「それならば育ててみたい」と考えるLGBTカップルは増えるのではないか。そしてその彼らは、この国の社会的養護における家庭的養護の推進を支える人材として社会的に位置付けることができるのではないか、と考えたのである。

幸運にも、社会的養護に関わる勉強会を開催している方がこのテーマに関心を寄せてくれた結果、昨年秋、「LGBTと里親制度」と題した勉強会を行うことができた。そこに参加いただいたアメリカのソーシャルワーカーの方からは、アメリカではLGBTが里親制度の人的資源として広く認識され、すでに多くのLGBTが里親として子どもの養育に関わっており、LGBT専門の里親・養親支援の団体などが存在することを教えてくれた。

また、里親の当事者からは、里親もLGBTと同じくマイノリティであるということを聞いた。周りからの無理解・偏見などLGBT当事者の悩みとも共通する部分が多くあった。ある里親さんからは「悩みながら生きてきたLGBT当事者は里親としてむしろ子どもに寄り添える資質があるともいえる」との言葉をいただき、LGBT里親の可能性について考えていくべきだと勧められた。日本でも、この「LGBTと里親制度」、さらに広げて「LGBTと社会的養護」について話し合う場、機会がもっと設けられるべきだと、この勉強会を開催して強く認識したのであった。

「LGBTと社会的養護」の現状

そのような経緯を経て、今年1月、LGBTの社会的養護への参画を考える団体「RFC(Rainbow Foster Care レインボーフォスターケア) http://rainbowfostercare.jimdo.com/」を設立することとなった。

これまで勉強会を計6回(2013年11月現在)開催し、法律の専門家、ソーシャルワーカー、研究者、里親など、さまざまな参加者が集まり議論を行った。参加者はLGBT当事者のみならず、非当事者でLGBTの社会的養護への参画について興味のある方にもたくさん参加していただいた。

そこで、日本の「LGBTと社会的養護」の現状について整理された事柄は次のとおりである。

【里親制度について】

日本では法律上、里親登録できる者を「夫婦」に限定しているわけではない。よって、同性カップルが里親になるために、同性婚制度の整備が必須というわけではない。

ただし、各自治体に独自の里親認定基準がある。例えば、東京都の基準では、「配偶者がいること」が基本原則となっており、例外ケースである独身者は、保育士などの資格を持っていることや同居の親族等の存在などの要件を別途満たさなければ登録ができない(東京都福祉保健局の回答によると、同性パートナーは「同居の親族等」に含まれないとのことである)。

独身者の里親登録が容易な県もあり、自治体ごとに里親認定基準がバラバラである。

里親の「登録」は可能であっても、「委託」されるか否かは自治体の判断にゆだねられており、現状では同性カップルであることを理由として委託を避けられる可能性もある(「登録」「委託」の二つのハードルがある)。

カップルの一人がトランスジェンダーであれば「同性カップル」と同じ問題が起こる場合がある。しかし、トランスジェンダー当事者が戸籍上の性別を変更後、パートナーと婚姻した場合は、里親登録・委託の手続き上、「法律上の夫婦」同様の扱いとなる。

【養子縁組制度について】

特別養子縁組の養親の条件は「夫婦」であり、同性カップルが特別養子縁組制度の下で子どもを養子として養育するためには民法の改正が必要である。また、現行の民法で同性カップルが子どもと普通養子縁組をすることは可能であるが、里親制度ですら原則として「夫婦」の基準を設けている自治体がある現状では、自治体が普通養子縁組という形で要保護児童を同性カップルのもとにあっせんする可能性は低いと予想される(他方、民間の養子あっせん団体では、同性カップルへのあっせんを視野に入れているケースがあるとの情報も寄せられた)。

このように、児童養護分野については自治体行政の裁量領域が非常に広範であることが判明した。厚生労働省が「家庭的養護の推進」を掲げる現在、各自治体は里親登録できる人材を限定して受け入れるのではなく、より多様な人材を柔軟に受け入れていく方向に転換すべきではないだろうか。子どもにとって必要なのは「安心・安全」な場所である。シングル親の家庭、法律婚を選ばないカップル、同性のカップル……と、すでに家庭が多様化していることに鑑みれば、もはや「父と母がいる『普通の家庭』」に限定して里親家庭を選ぶのではなく、どのような形の家庭であれ「安心・安全」な場所であれば、広く門戸を開くべきである、と私達は考える。

アメリカ視察

今年8月、私は団体の代表としてアメリカ・シアトルへ行き、「LGBTと社会的養護」の現状を視察する機会をいただいた。

シアトルでは、LGBTが里親・養親の人的資源として自治体から頼りにされており、法律やその運用におけるハードルはすでにないという。私が、ワシントン州の児童養護担当の職員に「自治体が、同性カップルであることを理由にその家庭を里親委託から外す場合はあるのか」と聞いたところ、「そのような判断を行ったソーシャルワーカーはむしろ差別禁止法違反の疑いがかけられ事情聴取されます」との答えだった。

市井に生きるLGBTたちにインタビューする機会もあった。LGBTサポート団体を運営するゲイの若者に「将来、子どもを育てたいか。育てるとしたらどのような方法を考えているか」と聞いたところ「育てたいという夢をもっている。親のいない子どもを育てる里親になりたい。それが僕らによって一番自然なやり方だよ」と答えていた。

また、里子を育てているレズビアンカップルに「なぜ里親という選択をしたのか」と聞いたところ、「自分の子どもが欲しいという理由で精子提供を受けて出産するレズビアンもいる。でも、私はこの世に家庭を必要としている子どもたちがすでにたくさんいることを知っていたので、私たちこそがその子どもたちを育てればいいと思った。血のつながりがあろうとなかろうと愛情を持って育てることに変わりはない。LGBTの人には、こういう子どもたちにより興味を持ってほしいし、柔軟な選択をして子育てに関わってほしい」とのことであった。インタビューに答えてくれたこのカップルは、さまざまな里親家庭の相談に乗り、里親仲間から信頼されていた。地域において重要な役割を担っている彼女たちがレズビアンであるということを問題にする人たちはもはやいないという。

里親をしているレズビアンカップルの自宅にて(中央が筆者)
里親をしているレズビアンカップルの自宅にて(中央が筆者)

さらに、LGBTを中心にサポートする里親・養親支援団体は、女性を見ると暴力的な言動を行う男の子がゲイカップル家庭に優先的に委託されたケースを紹介してくれた。里親となったゲイカップルが、男の子に「どのように女性を尊重し接していくべきか」を教育し、その子が更生する結果につながったという。また、男性恐怖症を抱く女の子がレズビアンカップル家庭に委託される場合もあるという。「同性カップル家庭は異性カップル家庭と変わらない家庭である」という面が受け入れられてLGBTの里親が増加してきたと聞いていたが、さらに同性カップル家庭ならではの特徴を生かした委託が行われている現状に驚いた。

その他、多くのLGBTや関係者にインタビューした。シアトルのLGBTにとって家庭を必要としている子どもを引き取って育てるという選択肢は、もはや当たり前のこととして定着している現状をはっきりと目の当たりにした。

シアトル視察の間、日本の現状についてさらに考えさせられた。日本のLGBTの中には、家庭を必要としている子どもを育ててみたいと思う人たちがいる。これから日本で家庭的養護の推進の施策が講じられていくとともに、そういった希望を持つLGBTがさらに増える可能性もある。そのようなLGBTが社会的養護に参画する機会が制限されている現状は、結果的に家庭を必要とする子どもが家庭で育つ機会が制限されていることにもつながっているのではないだろうか。シアトルで、LGBTの里親とともにのびのびと生活する子どもを見て、そのような思いを抱いた。

里親・養親支援団体が作成しているポスター。 「あなたがどう定義しようとも『家族は家族』」
里親・養親支援団体が作成しているポスター。 「あなたがどう定義しようとも『家族は家族』」

今後に向けて

今年9月、IFCO世界大会(*2)でワークショップを行った。自治体職員、里親、里親支援団体、海外のソーシャルワーカーなどさまざまな方に参加していただき、多くの励ましの言葉をいただいた。ワークショップ後、ある自治体職員から社会的養護下で暮らすLGBTの児童への対応についての相談なども寄せられた。育てる側としてのLGBTの問題だけではなく、育てられる側にいるLGBTの問題にも取り組む必要性を感じた。

(*2)IFCO世界大会・・・IFCO(イフコ)とは、International Foster Care Organization(国際フォスターケア機構)の略称で、子ども中心の社会的養護と家庭養護の促進と援助を目的とした世界で唯一の国際的ネットワー ク機構である。1981年に結成され、現在ではその会員は世界60カ国以上に広がっている。今年9月13日から16日の4日 間、大阪でその世界大会が行われた。次は、2015年シドニーで開催される予定である。

今後の活動としては、政府や自治体へのロビーイング活動など直接の働きかけも視野に入れながら、自治体職員を含め社会的養護に関わる人たちに人的資源としてのLGBTの存在を知ってもらうために、勉強会やワークショップを開催していきたい。そして、社会的養護のシステム自体がLGBTにあまり知られていないことから、LGBT当事者とともに社会的養護について勉強する機会を設けていく予定である。

また、社会的養護下で暮らす子どもたちを養子縁組できる家庭を増やすことも重要な課題であり、同性カップルが特別養子縁組できるべく民法改正を働きかける活動も必要になってくると考えている。

「一人でも多くの子どもたちに温かい家庭を」という目標の実現のため、社会的養護の中で見過ごされてきたLGBTという人材を生かしていくべきだ―――さまざまな分野の人との意見交換やアメリカ視察を通じて、そのような思いをさらに強くした。

この思いを少しでも多くの人たちと共有しながら、活動を前進させていきたい。

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プロフィール

藤めぐみ一般社団法人レインボーフォスターケア代表理事

法務博士(専門職)。 1974年豪州・シドニー生まれ。大阪府育ち。大阪大学文学部卒業、関西大学法科大学院修了。衆議院議員公設秘書、自治体職員などを経験。2013年、LGBTと社会的養護の問題について考える団体「レインボーフォスターケア」を設立。同年9月、IFCO世界大会(IFCO=家庭養護の促進と援助を目的とした世界で唯一の国際的ネットワーク機構)にて唯一LGBTをテーマにしたワークショップを開催。司法・立法・行政の各分野に携わった経験をもとに、さまざまな分野の専門家と意見交換を行いながら、LGBTと社会的養護に関する発信や提言をしている。

一般社団法人レインボーフォスターケア

http://rainbowfostercare.jimdo.com/

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