「多様な性の当事者たち」にとっての東日本大震災とは?

セクシュアリティの課題は、セクシュアル・マイノリティのみならず、性と生をよすがに自身を見つめ人とつながる、すべての人にとって本質的な課題です。そのため、あえてLGBTやセクシュアル・マイノリティにとっての、ではなく、「多様な性の当事者たち」にとっての、として論じてみます。「多様な性の当事者たち」には、自身のセクシュアリティに自覚的に生きるひと、すべてを含むと考えます。

 

震災などの災害も、同じくすべての人の課題であることは言うまでもないでしょう。また、これらの危機は障害者・高齢者・女性・子ども・疾病を持つ人など、日常から特に配慮の必要な人たちに、より多くの影響が出るということも、災害弱者という表現で指摘されているところです。

 

 3年半前の東日本大震災で、セクシュアリティに関わる課題は、どのようなものがあったのか? 当事者コミュニティはどのようにそれを受け止めたのか? 地域はどうだったのか? これらについて、述べてみようと思います。

 

 

2013年時点での被災地 左:岩手県陸前高田市広田半島 中央の枯れ木がすっかりかぶるくらい波が来たことがわかる。 右:宮城県名取市閖上(ゆりあげ) 枯草に覆われているところは、津波にさらわれた住宅地。

2013年時点での被災地
左:岩手県陸前高田市広田半島
中央の枯れ木がすっかりかぶるくらい波が来たことがわかる。
右:宮城県名取市閖上(ゆりあげ)
枯草に覆われているところは、津波にさらわれた住宅地。

 

 

震災で直面した困難の4つの側面

 

東北には以前から、ゲイ・バイセクシュアル男性のコミュニティ、レズビアン・バイセクシュアル女性などのノンヘテロ女性(異性愛者でない女性) のコミュニティ、トランスジェンダー主体のコミュニティ、学生団体など、ひととおり必要な属性でのラインナップは揃っていました。それぞれの主宰者は互いに情報交換をして、ゆるくつながりあう存在でした。しかし、震災を経験し、そのコミュニティがいかに限定されたものであったかと、痛感するに至りました。

 

震災に関連した、多様な性をめぐる特有の困難、課題はすでに多くあげられています。それらを4つの側面に注目して概観してみましょう。

 

 

(1)身体的・医学的側面として

 

HIVやGID治療、メンタルヘルスに関わる事柄で、具体的には、抗HIV薬やホルモン剤、向精神薬等の薬剤が入手に困難が生じた事案があったという点です。また、避難の局面で浴場や更衣室などがトランスジェンダーでない男女向けでしか想定されていなかった点があります。

 

 

(2)心理的・個人的側面として

 

私個人はセクシュアリティ・イシューの関係でも、地域の関係でも、双方で支えられたと実感しています。また、パートナーの存在は何より大きいものでした。しかし、コミュニティとのつながりが無い人、地域で孤立している人などは、たくさんいたと思います。そうした人は厳しい時期をどう乗り切ったのか、もっと生の声を聞かせてもらえたらと思います。

 

 

(3)社会的側面として

 

周囲の環境・人間関係においての関わりですが、被災前のカミングアウトの程度によって、その差異が際立ったのではと感じます。カミングアウトしていたことでスムーズだったこと、被災を機にカミングアウトを強いられた人、カミングアウトのきっかけにした人、変わらずカミングアウトせず乗り切った人など、それぞれの事情が行動に影響しました。

 

 

(4)包括的な面として

 

「自分は地元ではノンケ(異性愛者)として生活しているから、ゲイとして震災で困ったことは特にない」という言葉に、そうだろうなとは思いつつ、衝撃を受けました。アイデンティティがそれほどまでに危機を迎えていた。しかしそれは当たり前のことと、受け入れずにはいられない。多様な性に基づくニーズは、こうして隠されていくという、現実を突きつけられたと感じました。

 

 

今もなお、研究者やコミュニティグループにより、これらの課題を詳しく調べていこうという取り組みは続けられています。しかし、具体的に見聞きし、問題を網羅できるだけの情報収集能力、求心力は、震災時点ではコミュニティには備わっていなかったのだと言えるでしょう。【次ページにつづく】

 

 

2013年9月28日に開催した、シンポジウム「震災とセクシュアリティ」上記のような点が議論された。

2013年9月28日に開催した、シンポジウム「震災とセクシュアリティ」上記のような点が議論された。

 

 

 

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