LGBTと就活――混乱、さらに極まれり?!

(1) 働き続けやすい社風かどうか心配

 

結婚しないと冷遇されるのではないか、LGBTであることが知られた場合にハラスメントを受けたらどうしよう、等の不安を抱えている当事者は多い。

 

「A社は結婚しないと出世コースに行けないらしい」とか「B社は多様な人材がいて自由な雰囲気らしい」といった情報に、なんとなく心をザワつかせたりもする。また、女性の場合は、長年にわたって働き続けることができるのかも企業選びの重要なポイントになる。LGBTであること以前に、女性がひとりで食っていくこと自体(特に地方では)なかなか大変だ。

 

ほしい情報をどう集めるのかは工夫のしどころだが、参考になりそうなものとして、企業が出している情報に加えて『日経WOMAN』の「女性が活躍する会社BEST100」などのランキングに目を通すのはどうだろうか。女性が働きやすい職場は、LGBTを含めた多様な人々にとっても比較的働きやすいと言われている。

 

 

(2) LGBTであることを隠して面接で話すのが大変

 

「学生時代にがんばったこと」から「コンプレックス」「自分がもっとも勇気を出したこと」まで、面接ではこれまでの人生の多岐にわたる質問がなされる。ただでさえ答えるのが難しい質問も多いのに、LGBTが絡んでいるエピソードを「なかったこと」にして話をするのは結構大変だ。とはいえ、いちいちカミングアウトできるご時世でもないのが悩みどころだ。

 

例えば、こんなシーンを想像してほしい。

 

 

面接官:趣味はなんですか

就活生:映画鑑賞です

面接官:最近見た映画はなんですか?

就活生:(えーっと、レズビアンの老人カップルの映画なんだけど、それ言ったらまずいかな)「○×」という映画で・・

面接官:一番印象的だったシーンについて説明してください

就活生:老夫婦が子どもに秘密を打ち明けるシーンで……(これあんまり詳しく話したら自分がLGBTだってことがバレるやん!?)

 

 

残念ながら、今の日本では面接の際にカミングアウトするのは「賭け」に近い。カミングアウトしたとたん、15分の面接の8割をLGBTの解説に当てる羽目になることがあるし、不利になることのほうが割合としては多い(ただ、個々人の戦略の問題もあって、それで内定を得た人もいる)。

 

私自身、学生時代はLGBTの活動に明け暮れていた(テレビに出たり、全国各地に出かけたり)ので「きみが学生時代に頑張ったことは?」と訊かれて、正確なことを言えないのは非常に苦労した。そこで、大学の進路相談室に行って「こういう事情なんですが面接官にカミングアウトしても上手くいくと思いますか?」と聞くと、優しいキャリアカウンセラーのおじさんは「是非がんばりなさい」とほほ笑んでくれたのだが、その後どうにも面接に通らず(おじさーん!)、人事経験者の知人に泣きついた。彼女は言った。

 

「面接官が知りたいのは“何をしたか”ではなく“どのようにしたか”だよ。LGBTのことで相手がどう反応するかわからない以上、たとえば“LGBTの映画上映会をやった”経験を“ドキュメンタリーの勉強会をやって、こういう工夫をした”みたいに、やり方のほうを強調して話したらどうかな。それは嘘にはならないよ」。

 

……このアドバイスはなかなか利いた。

 

 

(3) どの性別で振る舞うのか

 

さて、残る一項目についても検討してみよう。

 

これは出生時の性別とは異なる性別で生きようとするトランスジェンダーや性同一性障害の当事者の場合に直面する、場合によっては「かなりエグい問題」だ。

 

まず、JIS規格の履歴書には性別欄が必ず存在している。また、たいていのエントリーシートでは性別欄は必須回答だ。しかし「履歴書持参」等の表記となっていて、こちらが用意したフォーマットでの履歴書が使える場合には、性別欄のない履歴書を当面使用するという選択肢もある。

 

ナベシャツ(胸を抑えるシャツ)を製造販売しているローゼス・ジャパン社のこちらのサイトからは、性別欄のないユニセックス履歴書が無料でダウンロードでき、活用している方も多いようだ。

 

一方、既存の履歴書やエントリーシートの性別欄に記入しなくてはいけない場合はどうしたらよいだろうか。

 

 

A 戸籍/法律上の性別に○をして、その性別に合わせた服装/身なりで面接を受ける

B 戸籍/法律上の性別に○をして、希望の性別に合わせた服装/身なりで面接を受ける

  (見た目と書類の性別が異なるので、カミングアウト/説明が必要になる)

C 希望の性別に○をして、希望の性別に合わせた服装/身なりで面接を受ける

 

 

おそらくは、この3つから選ぶこととなる。

 

Aでは、本人の心理的ストレスをどう処理するかという課題があるが、その他の面では「一般就活生の中にまぎれこむ」ことができる方法だろう。

 

Bでは、面接の際にカミングアウトをする必要がでてくる。残念ながら現状では不採用となるケースが多い。中にはカミングアウトして合格した例もあるが、不採用が続くことも考慮し、自分の精神衛生やモチベーションをどう保つのかが重要だろう。

 

Cでは、内定が下りた後に「実は戸籍/法律上の性別は○×で……」と、カミングアウトすることになる。希望の性別で就活をする際には、おそらくこの方法が一番内定を得やすいように思うが、どのタイミングで企業側に伝えるかが重要なポイントになる。

 

「戸籍/法律上の性別」と異なる性別を履歴書に書くのは詐称にあたるのではないかと懸念する声もあるが、「法的には私文書偽造罪には該当されず、企業側がそれを理由とした内定取消を行うことは難しい」というのが複数の弁護士による見解となっている(現時点で国内においてこのテーマのみで裁判が行われた例はない)。しかし、法的にはクロとは言えなくても、雇用者側の感情をどう汲んでいくかは課題だ。

 

ある友人は内定後に「実は戸籍上は女性でした」と伝えたところ、内定式の会場で社員たちに囲まれ、内定辞退するように圧力を受けた(その後、内定辞退)。別の友人は、大学のキャリアセンターや教授が間に入って一筆書いたことで、希望どおり勤務できるようになった。ある意味では、残念ながら「運」や相性の問題が大きいのが現状だろう。企業の人事の方には(上記のような事情がある中での)本人の善意だった、と解釈してもらえるとありがたいところだ。

 

 

 

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